前回、幸福度を地域別にランキングするような試みには反対であることを述べた。(幸福度の考え方(上) ―地域別ランキングの問題点―)
しかし、地域において幸福度の考え方を有意義に利用することは可能である。
すでに、幸福度を行政に生かそうとしている自治体は多い。例えば、京都府では「明日の京都」という長期ビジョンを2011年(平成23)からスタートさせているが、このビジョンの方向性の確認や、実施計画である中期計画の進捗をチェックするため、統計データと府民意識調査を組み合わせた「京都指標」を作成している。
また福岡県では、2011年度から知事主導のもと、「県民幸福度日本一」を目指すこととし、幸福実感等を調べる県民意識調査を続けている。そのほか、三重県でも知事の主導で「平成23年度県政運営の考え方」において、「日本一、幸福が実感できる三重を目指す」ことが明記され、継続的に県民意識調査が行われている。
区政の中心に位置づけ、積極的な取り組みを行う荒川区
幸福度を重視していこうという点で、先鞭をつけたのはおそらく東京都荒川区であろう。荒川区では、現区長の西川太一郎氏が幸福度(荒川区民総幸福度:GAH=Gross Arakawa Happiness)を区政の中心に位づけ、積極的な取り組みを行っている。
2017年3月に策定された「荒川区基本計画」も、「幸福実現都市あらかわ」の実現に向けた歩みを着実に進めるための計画として位置づけられている。
荒川区が実施している幸福度調査は、①健康.福祉②子育て.教育、③産業④環境⑤文化⑥安全.安心の6分野についての意識を調査している。
一方、荒川区基本計画は分野別の政策が目指す方向として、①生涯健康都市②子育て教育都市③産業革新都市④環境先進都市⑤文化創造都市⑥安全安心都市という六つの都市像を掲げている。幸福度の指標と、行政の政策体系が一致していることがわかる。
下記の表は、荒川区の幸福度調査の一部を示した。①は前述の6分野について、回答者が幸せにとって重要だと思う順番を聞いた結果である。
第1位に挙げられた分野で最も割合が高かったのは「健康.福祉」、続いて「安全.安心」「産業」という順番になっている。健康で安全な暮らしを安定的な経済的基盤のもとに営めることが、典型的な幸福像だということがわかる。
②はそのものずばり、「あなたは幸せだと感じていますか」ということを5段階で尋ねた結果である。幸せと感じている割合(「5」と「4」の合計)は49.1%であり、感じていない割合(「1」と「2」の合計)の9.8%を大きく上回っている。
幸福度をモニターしながら改善策を講じることが必要
他の同じような調査と比較してみよう。一般には5段階ではなく10段階で評価を尋ねているので、荒川区の回答を10段階に換算して平均値を求めると7.1となる。これに対して、国の調査(2014年)は6.38、山形県(2015年)6.48、愛知県(2015年)6.30、福岡県(2016年)6.46となっている。
これらをどう評価するかは難しいところだが、「多くの人々は、そこそこに幸せだと感じている」と言えるのではないだろうか。
筆者は、国が幸福度を政策の重要指標とすることにはあまり賛成できないのだが、地域が独自の考えに基づいて住民の幸福度を高めようとするのは、むしろ自然なことだと思う。
もともと自治体の基本的な役割は、きめ細かい住民福祉の向上策を講じていくことである。その意味で、住民の幸福度を継続的にモニターしながら、その改善策を講じていくことは必要なことであろう。
また、国が行うよりはずっと問題が少ないとも言える。例えば、国が幸福を定義することは、国民の価値観を押し付けることになるので問題があるが、地域については、むし「この地域は豊かな自然に囲まれて、ゆったり暮らすという幸福の形態を目指している」という具合に、幸福度を通じて地域の個性を発揮していくことができるかもしれない。地域における幸福度活用の動きに、これからも注目していきたい。