中心市街地空洞化問題

人口減少が続くなかで、多くの地域を悩ませているのが中心市街地の空洞化問題である。それまで賑わいの中心だった商店街が寂れてしまい、空き店舗が次々に出てきて、櫛の歯が抜けたようになっていく。
その原因は、第1に地域の人口が減る中で、小規模な店舗では採算が取れなくなってきた。第2 にモータリゼーションが進み、駐車しやすい郊外店舗が好まれるようになった。第3に共働き世帯が増え、かつてのように主婦が商店街で小口の買い物を日々繰り返すよりも、週に1度、車で郊外の大規模ショッピングセンターに出かけるという行動パターンが定着した。こうして原因はわかっても、再生策の決定打はなく、多くの地域が試行錯誤で模索している状態だ。
では、この問題を経済学の視点で考えてみよう。やや議論が面倒になり、敬遠したくなるような図が登場するが、お付き合いいただきたい。

副都心が誕生すると
都心近辺に未利用地が発生

ここで使用するのは「エッジ・シティの理論」である。下の図に基づいて説明しよう。
エッジ・シティの考え
 

エッジ・シティの考え方はたとえば、副都心ができると、それまでの都心部の商業用地がほかの用途に転換する必要があるが、その転換が円滑に進まないために未利用地が生まれるというものである。

図は、横軸に都心からの距離、縦軸に土地に対する付け値(需要者が払ってもよいと考える地代)を取ったものである。RC0は当初の商店の付け値を示す線(需要曲線と考えればよい)で、都心に近いほど高く、ある程度距離が離れるとゼロとなる。都心部は商店が立地する上で高く評価され、ある程度離れると立地する商店はいなくなるということだ。そして、RH0は家計の付け値を示す。これも都心に近いほど高く、ある程度離れるとゼロとなる。ただし、家計の線の傾きは商店よりは緩やかで、より遠くに伸びている。これは、都心部を高く評価する度合いは商店の方が大いからだ。
商店の付け値線と家計の付け値線は、Aで交わっている。するとAより左の地域は、商店が立地し、Aより右側は住宅が立地することになる。こうして、都心部には商店が立地し、その周辺に住宅が立地するという市街構造が形成されることになる。
ここで右端の 0’の地点に副都心が建設されたとする。すると、副都心を中心として、同じように商店と家計の付け値線が描かれる。それに伴って、副都心に一部の需要が取られてしまうため、従来の都心を中心とした付け値線は下方にシフトする。
今度はCで商店と家計の付け値が交わる。Cから左は従来どおり商店が立地し、Aの右も従来通り住宅が立地する。理論どおりに進めば、AとC の間は商店から住宅への転用が進むはずである。
しかし、この転換は完全には進まない。転換費用が掛かるからだ。商店の建物にそのまま人が住む
わけにはいかないから、建て直しが必要となり、それには費用が掛かる。すると、AからCの一部は未利用地となってしまう。これが副都心の誕生によって、従来の都心の近くに未利用地が発生することを説明する「エッジ・シティの理論」である。
中心市街地の空洞化は、このエッジ・シティの状況と同じである。すなわち、郊外に大型商業施設ができたために、従来の中心地付近での商店の根付け線が下方にシフトしたが、その転用が進まず中心地近くに空白地帯が生じる。その空白が空洞化した商店街だということである。
この議論を踏まえると、中心市街地の空洞化問題について、次のような示唆が得られる。
第1に多くの地域では、出て行った顧客を再び呼び戻して、中心部の商業施設を再活性化しようとしている。
しかし、商業施設としての需要曲線が下方シフトしたから空洞化したと考えると、再びかつてのような商業施設を中心地に呼び戻すことは難しい。かといって、住宅への転用が難しいから空白になっているのだから、住宅地としての再生も困難である。
すると、商業施設所以外の施設を誘致、建設してはどうかという考えに辿り着く。

医療機関を誘致することで
中心市街地の再生を試みる

その施設としては、市役所、図書館、保健所、ホールなど公共的な役割を担うものが考えられるが、私は病院などの医療機関を町の中心に立地させるのも一つの考えだと思っている。私の知る限りでは、長野県小諸市や福島県郡山市、鳥取県鳥取市などが病院を中心としたまちづくりを志向している。
ただし、どの地域も試行錯誤の段階であり、町の中央部に病院を立てさえすれば空洞化の問題が回避できるというほど、話は簡単ではない。
第2に土地利用のあり方を柔軟に変更できないから未利施設ができてしまうのだから、土地・建物の権利関係を整理し、地主、店舗所有者が未利用状態を放置するのを防止するような施策(たとえば税制)が有効であろう。
第3に人の移動を促進することも有効だ。市街地が空洞化したその地域に、空洞化を埋めてくれるような商店や施設が存在するとは限らない。
このように、他地域から未利用施設を活用したいという人を積極的に受け入れていくようにすることも、ひとつの有効手段になるのだと思う。
「商店街がダメなら、商店街以外での再生を」という発想で、中心市街地の空洞化問題は解決の糸口が現れることだろう。

著者:大正大学 地域創生学部教授 小峰隆夫

2018.06.04