本年1月末から、朝日新聞のデジタル版に、「8がけ社会 賢く縮むデザイン」という連載記事が掲載されている。
これは私にとっては大変勉強になった。私は、経済問題や地域問題について発言しているのだが、実際に企業を訪問したり、地域に出向いて現地調査をするということはほとんどやっていない。私は推理小説を良く読むのだが、その中に「アームチェア・デティクティブ」というジャンルがある。主人公はどこにも行かず、机に座ったままで、推理を働かせて、事件を解決してしまうという仕掛けだ。なぜこんな話をしているかというと、私は常日頃、自分は「アームチェア・エコノミスト」だなと考えているからだ。私はもっぱら机に座って、新聞・雑誌・本を読み、データを分析しながら課題に取り組んでいる。それはそれで成果は出るのだが、やはり現場を知らないので、「自分の分析は本当に実態を捉えているのか」と心配になる。だから、現場の情報を伝えてくれた朝日新聞の連載記事が大変参考になったのである。私が特に参考になったのは、次のような点だ。
第1に、差し迫った課題は、社会資本や公共施設を人口減少に適合させていくことだということがよく分かった。これは経済学の概念を使うと、フローとストックの関係で説明できる。人口が増えている時には、地方政府は、増える人口に合わせて道路や橋を作る。民間でも家が建てられたり、新しいお店が出来たりする。そのための社会資本投資や施設整備費、住宅投資、建設投資などはフローである。人口が減ると、瞬時にこうしたフローも減少する。ところが、投資によって出来上がってしまった道路や住宅は、人口が減ってもストックとして残る。
経済社会を人口減少に適合させていくために最も難しいのは、このストックの調整である。今回の朝日新聞の連載(第3回)では、道路や道路橋を身の丈に合った姿にするために大変な苦労をしている秋田県の例が取り上げられている。同県では、2014年に県道10区間50キロを廃止し、さらに2025年度から新たに廃止する区間を絞り込む作業に着手しているという。
第2に、当該地方公共団体の首長が積極的に関わり、できるだけ長期的な方向を住民に示していくことも重要なのだが、それを実践するのはなかなか大変だということが分かった。金沢大の林直樹准教授は、行政が「超長期的な縮小計画」を示しておく必要があると指摘している(第3回)。「30年後には廃止・縮小の可能性がある」といった将来の見通しを事前に共有しておけば、住民の側も住み方を変えていく可能性があるからだ。
そのためには、首長が先頭に立ってスマートシュリンクの音頭をとる必要があるのだが、首長が音頭を取ればなんでもうまく行くというわけでもない。高知県の濵田省司知事は、2025年から、県の重点政策として「Smart Shrink for Sustainable Society」(持続可能な社会の実現に向けた賢い縮小)を始め、これを「4Sプロジェクト」と名付けた(連載第5回)。行政サービスの効率化のために「集合(Syugou)」することで(必要なサービスを)「伸長(Shincho)」する。なかには「縮小(Syukusyo)」も必要だが、全体的には前例踏襲にとらわれず、新しいやり方で「創造(Souzou)」するというものだ。
この方針の下でまず高知県が打ち出したのが「県一消防」計画だった。消防士が高齢化し、かつ募集してもなり手が不足してきた。そこで、県内に15ある消防本部を一つにまとめることにし、2033年度の統合に向けて、26年春に法定協議会を設けるという段取りをたてた。しかし、市町村からの異論が出て、結局計画は先送りとなった。やはり、それまであった消防本部がなくなると言われれば、市町村の不安は大きかったのだろう。高知県知事の意識が時代の先を行き過ぎていたのかもしれない。
第3は、住民の理解を得ることが不可欠だということが改めて良く分かった。朝日新聞の連載では、長野県の例が紹介されている(第7回、第8回)。そもそも朝日新聞の連載のキーワードは「8がけ社会」である。これは、2040年頃には、日本の生産年齢人口(15~64歳)が現在よりも2割も減ってしまうという危機意識を示したものである。長野県では、2050年の人口はピーク時から3割減になることから「人口7がけ社会」がやってくると訴えている。
長野県では、こうした方向についての理解を進めるためには、住民同士の対話が欠かせないと考えた。人口減少が続けば、上下水道などのインフラの維持は難しくなり、医療や交通などのサービスも縮小せざるを得なくなる。それは必然的に住民の痛みを伴うことになるからだ。そこで、長野県ではまず、人口減少の事実を共有し、コンパクトで柔軟な地域社会を作ることなどを盛り込んだ「信州未来共創戦略」を作った。阿部守一長野県知事の説明によると、これは、企業、地域、県民みんなで人口減少に向き合うための羅針盤なのだという。県はさらに、この創生戦略を進めるために、地域住民や企業団体を巻き込んだ「県民会議」を設け、議論を続けている。
私は、こうした住民の議論を進めるために、大正大学の地域構想研究所の地域戦略人材塾で繰り返し取り上げている「フューチャー・デザイン」の手法を取り入れたらどうかと思う。詳しい説明は、当研究所の研究レポート「フューチャー・デザインについて考える-将来世代の意思をどうやって現在に生かすか」2023.10.02 https://chikouken.org/report/report_cat01/14941/ を見て欲しい。
この連載はさらに続いているから、スマートシュリンク実践の姿をもっと知ることができそうだ。
スマートシュリンクを実践する地域に学ぶ
2026.03.16


