スマートシュリンクを考える

著者
大正大学地域構想研究所 客員教授
小峰 隆夫

私は10年以上前から「スマートシュリンク(賢く縮む)」という考えを紹介してきた。それは「人口減少を受け入れた上で、人口が減っても地域で暮らす人々のウェルビーイングが保たれ、更にはより高めて行けるような地域づくりを目指す」ということである。この考え方について最近、朝日新聞が全知事への大規模なアンケート調査を実施した。このアンケート調査については、朝日新聞のデジタル版(1月19日)及び新聞紙面(1月30日)で内容を知ることができる。このアンケートについては、調査の設計、結果の解釈などについて、私と当地域構想研究所主任研究員の中島ゆき氏が議論に参加している。本稿では、その結果を紹介しながら、私が感じたことを紹介してみたい。
まず、知事の間では、「人口減少は不可避だ」「人口減少に歯止めをかけることは難しい」という認識が相当広がっていることが分かった。アンケートでは、「『賢く縮む』という考え方を施策に採り入れるべきか」を尋ねているのだが、「採り入れるべき」が26%、「どちらかと言えば採り入れるべきだ」が32%となっており、合わせて57%(四捨五入の関係で両者の和と一致しない)が賢く縮むという方向に対して肯定的である。他は、「どちらとも言えない」が43%であり、「採り入れるべきではない」「どちらかと言えば採り入れるべきではない」という否定的な回答はゼロであった。
これは私にとっては隔世の感がある。私は10年以上前にスマートシュリンクを言い始めた頃は、地方公共団体の方にこの考えを説明しても、「シュリンク(縮む)というのは将来に希望を抱かせるようなイメージではないので、受け入れがたい」という反応が多かったからだ。
では、こうして人口減少を受け入れようという認識が広がったのにはなぜだろうか。二つの理由がありそうだ。一つは、人口減少に歯止めがかからない状態が続いていることだ。2000年以降の合計特殊出生率の推移を見ると、2000年の1.36だった出生率は、2015年には1.45となっていたから、この頃までは「頑張れば出生率をさらに引き上げて、人口減少に歯止めをかけることは可能だ」と考えても不思議ではなかったのだ。しかしその後、出生率は低下の一途をたどり、2024年には1.15まで下がった。ここまで下がってしまうと、出生率を人口の置換水準である2.07まで引き上げるのは至難だということが分かるようになり、誰もが人口減少を受け入れるようになってきたのではないか。
もう一つは、国の政策姿勢だ。約10年前の第2次安倍内閣の下では、人口減少を1億人でストップさせるという目標の下に、各地域が少子化対策に力を入れるという地方創生が推進された(いわゆる「地方創生1.0」)。しかし、その効果は現われず、人口減少は止まらなかった。こうした事態を受けて国自身も、2024年12月に閣議決定された「地方創生2.0の基本的な考え方」で「人口減少を正面から受け止め、人口規模が縮小しても経済成長し、社会を機能させる適応策を講じていく」としているのだから、県知事の方々の認識も変わってきたのだろう。
次に、「抑制」か「適応」かという問題を取り上げよう。人口減少に対しては、これに歯止めをかけようとする「抑制戦略」と、人口減少の下でも経済社会が機能し続けるようにする「適応戦略」がある。スマートシュリンクは適応戦略である。今回の朝日新聞のアンケートには、「抑制戦略と適応戦略のどちらを重視するか」という質問がある。その結果は、「抑制戦略を重視」が2%、「どちらかと言えば抑制戦略を重視」が0%、「同程度に重視」が89%、「どちらかと言えば適応戦略を重視」が7%、「適応戦略を重視」が2%であった。要するに大部分の知事は両方重視するということである。
この結果を一見すると、まだスマートシュリンクの支持は弱いように見える。しかし、私は必ずしもそうだとは思わない。これまでどの自治体も、少子化対策(すなわち抑制戦略)に力を入れてきた。ということは組織内には熱心に少子化対策に取り組んでいる職員がたくさんいるはずだ。そんな中で、組織の長としては、仮に「これからは適応戦略重視だな」と考えても、なかなかそうは言えない。適応戦略が抑制戦略と同程度に重視されるようになっただけでも、かなりの前進ではないかと私は思う。
なお、この点については知事の自由記述として「両者は補完的だ」「二律背反ではない」といった指摘が出ており、私も確かにそうだと思う。つまり抑制戦略と適応戦略は、それぞれが独立の政策ではなく、関係しあっている。スマートシュリンク(適応戦略)が機能すれば、地域に暮らす人々のウェルビーイングが高まるのだから、その地域の魅力が高まり、人々が流入してくるかもしれない。適応戦略が成功することが抑制戦略の効果を高める可能性があるのだ。逆に、抑制戦略が効果を発揮し、人口減少のスピードが弱まれば、適応戦略もやりやすくなるだろう。
最後にアンケートからは、「適応策」について、どの知事も具体的な対応に苦慮している姿も伺えた。ある知事は、「再構築・集約には痛みが避けられない」と指摘している。つまり、これまでの施設や社会資本を人口減少に適合させようとすると、施設の集約や、社会資本の再整備が避けられないが、それにはコストもかかるし、一部の住民に痛みを強いる場合もある。何が最適解かは簡単には導き出せない。それは今後、各地域でスマートシュリンクが実践される中で、試行錯誤的に探っていくしかないのだろう。
このアンケート調査が報じられた後、朝日新聞のデジタル版では、「賢く縮むデザイン」というシリーズの記事が10回にわたって連載された。その内容も興味深いものがあるので、いずれご紹介したいと思っている。

2026.02.16