政府は、2024年12月に「地方創生2.0の『基本的な考え方』」を決定した。「これは重要だ」と思って、早速読んでみると、当地域構想研究所で議論してきた考え方が多く盛り込まれていることに気が付いた。このことは、当研究所のアプローチが、案外時代の先頭に立っていたことを示しているように思われ嬉しかった。以下、手前みそ的ではあるが、具体的に紹介しよう。
スマートシュリンク
まずやや驚いたことに、スマートシュリンクの考え方が、かなり中心的な考え方として採用されている。スマートシュリンクは、人口減少に無理に歯止めをかけようとするのではなく、人口減少と共存し、人口が減っても地域住民のウェルビーイングが向上するような道に向かうべきだという考えである。これは、私が最近熱心に主張していることで、私が塾長を務める地域戦略人材塾では、私自身が講義の中で取り上げている。
「基本的な考え方」では、書き出しの部分で登場する。具体的には次のようになっている。
「今後人口減少のペースが緩まるとしても、当面は人口・生産年齢人口が減少するという事態を正面から受け止めた上で、人口規模が縮小しても経済成長し、社会を機能させる適応策を講じていく」
まさにスマートシュリンクの考え方だ。ただし、ここでは「当面は」となっているが、私は、人口・生産年齢人口の減少は相当長期にわたって続くと考えている。
関係人口
関係人口も登場した。これは、当地域構想研究所主任研究員の中島ゆき先生が熱心に研究してきたテーマだ。地域戦略人材塾でも中島先生が関係人口について講義している。既に総務省では、関係人口の促進強化に動いているのだが、地方創生1.0にはなかった考え方だ。
関係人口というのは、総務省の定義によれば、「移住した『定住人口』でもなく、観光に来た『交流人口』でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉」となっている。つまり、地域の人口としてカウントされるわけではないが、地域とのつながりを持ち、多様な形で地域の活性化に貢献してくれる人たちである。関係人口が増えれば、人口が増えたのと似たような効果を期待できるという考え方である。
「基本的な考え方」では、「5 地方創生2.0の基本構想の5本柱」の中の「②東京一極集中のリスクに対応した人や企業の地方分散」で登場する。具体的には次のようになっている。
「地方への移住や企業移転、関係人口の増加などの人の流れを創り、東京圏への過度な一極集中の弊害を是正する」
少し補足しよう。私は、関係人口の考え方は、東京一極集中のためというよりは、スマートシュリンクを実現するための方策の一つだと考えている。定住人口にこだわらずに、関係人口に力を入れるという道は、人口が減っても住民のウェルビーイングが損なわれないための工夫だと考えられるから。
アンコンシャス・バイアス
アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)も登場している。私は、当研究所の研究レポートで「女性はなぜ出ていくのか ―アンコンシャス・バイアスという考え方―」(2024年7月)という小論を書き、地方部における女性に対するアンコンシャス・バイアスの存在が、女性が地方部を離れて大都市圏に向かう一つの背景になっているという懸念を表明している。地方から東京に来た女性へのアンケートでは「地元の集まりでお茶の準備は女性がしていた」「世間体を重視する人が多かった」という声が聞かれる。若い女性たちは、こうしたアンコンシャス・バイアスを避け、多様な価値観を受け入れてくれる大都市圏を志向しているのではないかというのである。
「基本的な考え方」では、まず、「3 地方創生をめぐる情勢の変化」で「地方にとって厳しさを増す変化として、‥様々な場面におけるアンコンシャス・バイアスなどにより、若者女性の地方離れが進行」と指摘している。次に、「5 地方創生2.0の基本構想の5本柱」の「①安心して働き、暮らせる地方の生活環境の創生」についての「考えられる施策」として「アンコンシャス・バイアスの解消」が挙げられている。
しかし、すぐに気が付くのは、ではそのアンコンシャス・バイアスの解消のために政策的に何をするのかが書かれていないことだ。この点は、私も前述の小論を書いた時に直面した課題だ。人々の価値観に関することなので、国や自治体が政策的に働きかけるのが難しいのだ。私が答えを見つけられなかったように、政府もまだ答えを見出していないようだ。
ここで取り上げたもの以外にも、「基本的な考え方」には、「地方経済の高付加価値化」「デジタル・新技術の活用」「都市部の人材の力を兼業・副業の形で生かす」といった、地域戦略人材塾で取り上げてきたテーマが出てくるのだが、紙数も尽きてきたので、今回は代表的なものの紹介に止めておこう。