今回も、前回、前々回に続いて、国立社会保障・人口問題研究所が発表した新しい地域別の将来推計人口について考えてみたい。
日本の人口変化と言えば、誰もが思い浮かべるのが「人口減少」「少子化」「高齢化」という3点セットである。人口減少は人口総数、少子化は年少人口(14歳以下)、高齢化は老年人口(65歳以上)を見たものである。ところが私は、経済社会への影響という点では、この3点セットから漏れている「生産年齢人口(15~64歳)」の変化こそが最も重要だと考えている。やや自慢になるが、この生産年齢人口に着目するという点は、私が「人口負荷社会」(2010年、日経プレミアシリーズ86)という本で先鞭をつけた考え方である。
この生産年齢人口の影響を私は、「人口ボーナス」と「人口オーナス」という概念で説明している。その概要は次のようなものである。少子化が始まり、年少人口の数が減っていってしばらくすると、人口ピラミッドは中膨れの形になり、人口に占める生産年齢人口の割合が高まる。それまでのまだ多かった頃の年少人口が生産年齢人口に移っていくからである。生産年齢が働く人口だと仮定すると、これは経済の中で働く人の割合が増えることを意味するから、経済にとっては追い風になる。これが「人口ボーナス」であり、国際的に見ても、この人口ボーナス期には経済成長率が高くなることが知られている。日本の場合は、高度成長の時代がちょうど人口ボーナスの時代であった。
ところがこの恵まれた時代は長くは続かない。中膨れを形成していた生産年齢人口が次第に老年人口に移行していくと、人口ピラミッドは次第に逆ピラミッドの形になっていき、今度は生産年齢人口の割合が低下する。すると、働く人が減ってしまうので経済には逆風となる。日本は1990年頃からこの人口オーナスの時代に入っているのである。
よく考えてみると、人口構造の変化が日本の経済社会にもたらす諸課題のほとんどすべては、この人口オーナスによってもたらされている。「働く人が不足して経済が回らなくなる」「社会保険料を納める人が減って社会保障制度が行き詰まる」「地域の経済の活力が衰える」いずれもが、人口オーナスで生産年齢人口(働く人)の割合が低下したことが主因である。
そこで、地域別の生産年齢人口の動きを具体的に見てみよう。県別の生産年齢人口の2050年までの変化を見ると、東京を除く全道府県で一貫して減少が続く。しばらくの間東京だけが増えるのは、東京への人口流入が続き、その流入は、主に就学、就労のためなので、流入してくる人口の大部分が生産年齢人口だからである。その東京も2030年をピークに(変化は5年ごとに示されている)減少に転ずる。東京への人口集中傾向が続くにもかかわらず、2030年以降は東京でも生産年齢人口の数が減るのは、それまで流入してきた人々が、次第に老年人口に移行していくからである。要するに、間もなく日本の全地域で生産年齢人口が減っていくということである。
ただし、前々回の私のエッセイ「改めて明らかになった厳しい人口の姿」で触れたように、今回の社会保障・人口問題研究所の人口展望では、外国人の流入を相当多く見込んでいる。これらの外国人のほとんどは日本に働きに来るわけだから、大部分は生産年齢人口である。つまり、全国でも地域別でも、将来の生産年齢人口は外国人の大量流入によってかなりかさ上げされているわけだ。この展望で想定されているようなペースで外国人が入って来ない場合は、人口オーナスの姿は更に厳しいものになることに注意する必要がある。
要するに全国で人口オーナスが進行するわけだが、これを地域別に見ると、大都市圏では人口オーナスの度合いが弱く、地方部ではその度合いが高いという結果が得られる。すると、人口オーナスと地域の関係については、次のような問題が現われる。
まず、人口オーナスの度合いが低い地域ほど生産年齢人口比率が高く、働き手が豊富に存在するから経済の発展性は高くなる。逆に、人口オーナスの度合いが高い地域は発展性が制約される。すると、発展性の低い地域から高い地域へと生産年齢人口が流れる。この人口移動によって、人口オーナス度の高い地域はますますオーナスの度合いが高まりまた、それが低い地域はますます低くなる。こうして、人口オーナスを介して、地域間の発展性の格差が増殖していくことになってしまうのである。
日本全体が人口オーナスの進行に対抗するためには、それまで働いていなかった人にも働いてもらうようにする(女性や高齢者の労働参加率を高める)、省力型の技術革新を導入して働く人の生産性を引き上げる(一人で二人分働く)、外国人労働力を増やすといったことが考えられる。一方、地方部が相対的に大きな人口オーナスに対抗するためには、これに加えて、さらに雇用の場を増やし地域の魅力を高めるといったことが求められる。人口オーナスへの対応は日本全体にとっても地域にとっても重要な課題となるのである。
続続・新しい地域の人口展望
2024.03.15