続・新しい地域の人口展望

著者
大正大学地域構想研究所 客員教授
小峰 隆夫

前回は、2023年12月に国立社会保障・人口問題研究所が新しい地域別の将来推計人口を公表したことを紹介した。この地域別の将来推計人口については、まだまだ言いたいことがあるので、今回はその続きである。
日本の人口が高齢化しつつあることは誰もが知っているだろう。ではその「高齢化」とは何だろうか。これについても多くの人は「人口に占める高齢者の比率が上昇することです」と言うだろう。これは正しく、国際的にもそれが高齢化の定義となっている。ただし、この時忘れない方がいいと思うのは「高齢化が進んでも、必ずしも高齢者の数が増えるわけではない」ということだ。
まず、日本全体について見よう。今回の地域別将来人口推計の元になったのは、23年4月に公表された「日本の将来推計人口」である。この推計は2070年までを対象としているのだが、この間、高齢者の化率は上昇し続ける。2020年には28.6%だった高齢者(65歳以上、老年人口という)の比率は、2050年には37.1%、2070年には38.7%となる。もちろん、これはこれでかなり大きな変化である。ところが、これを高齢者の数で見ると、様子が違うのだ。すなわち、2020年に3603万人だった高齢者の数は、2040年の3929万人まで増加を続けるのだが、2043年をピーク(3953万人)として減少し始め、2070年には3367万人まで減って行くのだ。
これは、こういうことである。人口が増えている時には、年少人口(14歳以下)⇒生産年齢人口(15~64歳)⇒老年人口という順番で人口が増えていく。ある時点から少子化が始まると、年少人口の数が減って行くのだが、生産年齢人口⇒老年人口という増加は続くので「高齢者の比率も数も上昇する」ことになる。ところが、しばらくすると老年人口も減り始めるのだが、年少人口と生産年齢人口は先行的に減少しているので、高齢者の比率は上昇を続け「高齢者の比率は上昇するが数は減る」ということになるのである。
この「将来は高齢者の数が減って行く」ということは案外重要なことである。高齢化に伴う需要の変化は、高齢者の数に依存するからだ。例えば、「これから高齢化が進展するのだから、高齢者向けの衣料品を開発すれば、安定的に需要が増えて経営は安泰だ」などと考えていると痛い目にある可能性があるからだ。
これを、今回の地域別人口展望によって、地域別に見るといろいろな変化が分かってくる。 まず、人口に占める高齢者の比率は、2050年まで(地域別の推計は2050年まで)全都道府県で一貫して上昇を続ける。ただし、地域によって高齢化の度合いには差がある。2050年の時点で最も高齢者の比率が高いのは秋田県で、その比率は何と49.9%。人口の半分が高齢者になる。一方で、最も低いのは東京都の29.6%。東京は、生産年齢の流入があるので、高齢者の比率が高まりにくいのだ。
次に高齢者の数を見よう。前述のように、日本全体では2043年をピークに老年人口は減少するのだが、これにも地域差が大きい。すなわち、2020年の時点で既に9県の老年人口が減り始めているのだが、その後、次々に老年人口減少道府県が増え、2050年の時点では44の道府県が減少に転じている。この時点でも依然として増加しているのは、東京都、愛知県、沖縄県だけである。
このように見てくると「大部分の道府県は減少しているのだから、全国で見た場合とそれほど変わらないではないか」と考える人がいるかもしれないが、そうでもないのだ。今後は、人口規模の大きな地域で老年人口が増えるので、そのインパクトはかなり大きいのである。例えば、2020年と2050年を比べると、全国では高齢者の数は285万人増えるのだが、東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)ではこの間に234万人も増える。つまり、全国で増える高齢者の約8割は首都圏で増えるのである。
こうした高齢者の地域的アンバランスは多くの問題を生じさせそうだが、分かりやすいのは高齢者向けの施設の需給バランスが地域によって大きく異なることだ。これは既に現実の問題になっている。2023年の厚生労働省の調査によって市町村別に特別養護老人ホーム(広域型)の稼働状況を見ると、44.8%が「全ての施設で満員」としているが、「施設・時期によって空きがある」と「常に空きがある」の合計が約2割に達している。これは特に過疎地において要介護の高齢者の数が減少しているため、高齢向けの施設が余ってきていることを示している。こうした状況が続けば、今後は大都市圏(特に首都圏)で著しい介護施設の不足が起きる一方で、高齢者数が減少する地方部では施設が余るというなりそうだ。
もちろん、高齢者が自由に居住地を移動したり、介護施設やそこで働く人が他の用途や職場に弾力的に移ったりすれば話は簡単なのだが、現実にはそれも難しい。地域別に人口の増減度合いが大きく異なるとき、建設してしまった施設というストックをどう調整し、働いている人の職場の変化にどう対応するかが大きな問題になることが分かる。

2024.02.15