私は地域の人口問題に強い関心を持っている。人口はそれぞれの地域の将来像を左右する。それだけに、多くの自治体は、人口がどうなるかについて真剣に考えており、「人口を増やす」または「人口をできるだけ減らさないようにする」ことを政策目標としている自治体も多い。
地域は人口変化にどう対応すべきか。これは大変重要な問題だが、この問題を考えるためには、まずは、これから地域の人口はどう変化していくのかについての認識を持っておく必要がある。この点について、最近、大変重要な新しい資料が発表されたので、今回はその内容を紹介したい。
国立社会保障・人口問題研究所は、2023年12月に、2050年までの地域別の将来推計人口を公表した。これは、同年4月に公表した日本全体の人口推計を地域別に示したものである。日本全体の人口推計は、5年に1度の国勢調査に基づいて作成されているので、この地域別の人口推計も5年に1度公表されている。
今回は、この地域別人口推計の結果の中から、地域別の人口規模の変化を紹介しよう。以下では、これを二つの視点で眺めてみよう。一つは、これからの地域別の人口がどんな姿を示すかの見当をつけることである。地域別の人口推計は、全国推計に比べてどうしても誤差が大きくなる。地域間の人口移動があり、その姿を的確に推測するのが難しいからである。今回の結果は、一つの標準的な展望として捉えた方がいいだろう。もう一つは、前回の5年前の地域別人口推計と比較することによって、地域の標準的な人口展望がどう変化したかを見ることである。
今回の推計によって、地域別の人口規模の変化を見ると、ほとんどの地域で人口が減るという姿が示されている。日本全体の人口が減って行くのだから、それも当然だと言えるだろう。今回の推計では5年刻みで人口の変化が示されている。足元の2015~2020年では、39道府県で人口が減少したのだが、人口減少県の数は増え続け、2020~2025年では東京以外の全ての道府県で人口が減少し、2040年以降は東京も減少に転ずるので、全都道府県の人口が減ることになる。
なお、人口の減り方には地域差があり、減るところはかなり減る。2020年から50年までの間に、秋田、青森、岩手県は4割程度も人口が減少する。
市町村別にみても、人口減少が全国を覆うようになることが分かる。足元の2015~2020年で、全市区町村の81.9%で人口が減少していたのだが、今後も人口減少自治体は増え続け、2045~2050年では全市区町村の98.9%で人口が減る。日本のほとんど全自治体の人口が減るということである。
なお、人口の減り方、減った後の姿は、市区町村別にみてもかなり異なる。例えば、2020年~2050年の間に日本全体の人口は17%減少するのだが、この間に人口が増えているのは77(全体の4.5%)だけであり、341(19.8%)の自治体では人口が半分以下になる。また、地域別の人口には「人口規模が小さい地域ほど人口減少が進みやすい」という傾向があるので、小規模自治体の数も増える。例えば、人口規模が5千人未満の市町村の割合は、2020年には16.4%だったのだが、2050年にはこれが27.9%に増える。約4分の1の自治体が、人口5千人以下になるわけだ。
次に前回(2018年)の地域別人口推計と比較してみよう。前回と今回では、推計の元になった全国推計の想定出生率がかなり異なる。すなわち、前回の推計では、出生率を1.44と想定していたのだが、今回の推計ではこれが1.36とかなり低くなっている。近年の出生率低下傾向を踏まえてのことである。より低い出生率を想定したのだから、地域別の人口の姿もより厳しいものになったと誰もが考えるだろうが、ところが意外なことにそうでもないのだ。
前回の推計は2040年までなので、2040年の姿を比較してみよう。例えば、唯一2040年までの人口が増えつづけていた東京都の2040年の人口は、前回が1,375万人であるのに対して、今回は1,450万人である。一方、最も人口減少が大きかった秋田県は、前回が673万人だったのに対して、今回は686万人である。いずれも前回推計より人口が増えている。ちなみに、日本全体の2040年の人口も、前回は1億1092万人だったのが、今回は1億1284万人とやはり増えているのだ。
今回はより低い出生率を前提として計算したのに、むしろ人口は今回の方が増えている。どうしてだろうか。これは新推計では、外国人の流入が前回推計よりも大幅に増えるという前提を置いたからである。前回推計では、外国人の流入超過を年平均6.9万人としていたのだが、今回の推計ではこれが16.4万人となった。日本人が子供を産まなくなっても、外国人が増えたので、前回ほどは人口が減らなかったのだ。
すると、問題はこれほどの数の外国人の流入が長期間続くかどうかである。今回の推計によれば、2020年に45人に一人だった外国人の数は、2040年には約20人に一人となる。これが各地域にどう分散するのかは、今回の推計からは分からない。
仮に、外国人が今回の前提ほど流入してこなければ、地域の人口の姿はさらに厳しいものになり、想定通り流入してくるとすれば、地域によっては外国人との共生をどう図っていくかが大きな課題になる。今回の地域別人口推計をめぐっては、考えさせる問題がたくさんありそうだ。