結婚・出産意欲低下の背景について考える

著者
大正大学地域構想研究所 教授
小峰 隆夫

これまでも、新型コロナウイルス感染症によるショック(以下、コロナショック)後の人口動態の変化について考えてきた。出生数の減少、出生率の低下、婚姻件数の減少などがその主なものであった。
問題はそれが一時的・短期的なものなのか、それとも長期的・構造的なものなのかである。今回は、コロナを機に結婚・出産意欲が低下した背景を考えてみたい。

この30年間で男性が相手の経済力を重視する度合いが高まりつつある

まず結婚に際して、男女が相手のどのような点を重視しているかを見よう。国立社会保障・人口問題研究所の「第16回 出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」では、「いずれ結婚するつもり」と回答した18~34歳の未婚者が、結婚相手についてどんな点を重視するかを聞いている。
これを見ると1992年(平成4)以降、共通して見られるのは、男女ともに「人柄」が重視されている。「家事・育児の能力や姿勢」も、双方がかなり重視している。また、男性は女性よりも相手の「容姿」に重きを置いている傾向もわかる。
もう一つ、男性と女性で異なるのは、学歴や経済力である。女性の方が、相手の学歴や経済力を重視している。特に経済力については、一貫して非常に高い割合だ。
このように、女性が男性に自分より高い学歴や経済力を求める傾向は、「上方婚(じょうほうこん)」と呼ばれており、昔から見られることである。
この上方婚は、未婚者の増加傾向と関係している可能性がある。男女共同参画が進む中で、女性も男性と同じような学歴を持ち、収入を得るようになると、次第に「自分より高学歴、高収入の男性」は減ってくるからである。
ただし、1992年と2021年(令和3)の調査を比較してみると、いくつかの違いがある(下表参照)。

まず、容姿については、女性も相手の容姿を重視するようになってきた。逆に経済力については、男性が相手の経済力を重視する度合いが高まっている。これは、結婚相手に求めることが、男女で差がなくなってきたということであり、ある意味で男女共同参画社会に即した変化だとも言える。
以上をまとめて、やや戯画化して言うと、男性は相手に「人柄が良く、容姿端麗で、家事・育児をしっかりやってくれる人」を望むが、女性は相手に「人柄が良く、容姿も良く、高学歴で経済力もある、さらに家事・育児にも積極的に参加してくれる人」を望んでいることになる。
前回、コロナショック後の結婚・出産意欲の低下が希望出生率の低下を招き、深刻な問題であることを述べた。その背景を考えてみよう。
結婚・出産意欲の低下に関係しそうな要因として第一に考えられるのが、経済的要因である。
前述のように、女性は結婚相手としての男性の経済力を重視するから、経済力に不安のある男性は結婚に辿り着くのが難しくなる。
実際のところ、総務省統計局の「平成29年就業構造基本調査」による雇用形態別の有配偶率を見ると、正規従業員の場合は、25~29歳で30.5%、30~34歳で59.0%となっているのに対して、非正規従業員の場合は、25~29歳で12.5%、30~34歳で22.3%となっている。
要するに、非正規の場合は正規に比べて、結婚している男性の割合は半分以下なのである。
今回のコロナショックでは、正規よりも非正規の雇用が失われた。このことが結婚対象の男性の経済力を奪い、結婚を難しくした可能性がある。
第二に考えられるのは、出会いの場が減ったことだ。コロナショックを契機とした意識の変化については、内閣府がこれまで5回にわたって「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」を行っており、かなりの情報が蓄積されつつある。
この調査によって、コロナショック後の新たな出会いの変化について見ると、出会いを探している未婚者のうち63%は「変化なし」と答えているが、30.4%は「新たな出会いが減少した、又は非常に減少した」と答えている(2022年4~5月の状況をコロナ前と比べたもの)。
やはり、コロナショックで対面サービスの旅行や外食が制限されたことは、男女の出会いの場を狭めたのではないか。
そして第三は、コロナショックで女性への負担が増えてしまったことである。同調査によってコロナ前と比較した家事・育児時間の変化を見ると、「大幅に増加(51%以上)」と答えた割合が、男性4.2%に対して女性8.5%。「増加(21~50%)」と答えた割合が、男性11.5%に対して女性14.6%となっている(2022年6月時点)。

コロナショック後の少子化対策が効果を発揮する3つの理由

コロナショックで男性の在宅時間が増えたり、子どもの保育に手が掛かるようになったことが、女性の時間的負担を大きくしたのかもしれない。これは、結婚にフレンドリーな環境をつくるという点からは後退していると言わざるを得ない。
これまで述べてきた要因は、どちらかと言えばコロナショックに特有の現象であり、コロナ前の日常が回復されれば、薄れていく可能性がある。
一方、こうしたコロナショック後の少子化対策が本当に効果を持つためには、①結婚を考える若年層の所得環境を安定させること②結婚相手に対する考え方も含めて、本当の男女共同参画社会を築いていくこと③男女が平等に家事・育児を分担する社会を目指す必要があること——などを改めて教えてくれたのだとも言える。

(『地域人』第87号掲載)

2023.05.15