20年国勢調査からもう一度人口を考える

著者
大正大学地域構想研究所教授
小峰隆夫

本連載では、既に一度2020年の国勢調査を取り上げたことがある(第71回「20年国政調査から人口を考える」)。この時は、日本の人口総数の減少、地域別の人口変化、世帯数の変化などを取り上げた。この国勢調査については、昨年11月末に、さらに詳細な確定値が公表され、これによって、20年時点での年齢構成の姿が明らかになった。今回はこの年齢構成の変化とその意味について考えてみよう。

世界で最も高齢化が進んだ
2020年の日本の人口構造

この国勢調査の確報によって明らかになった2020年時点での日本の人口構造を再確認してみよう。通例に従って、人口を年少人口(15歳未満)、生産年齢人口(15〜64歳)、老年人口(65歳以上)の三つに分けて考えよう。

まず、年少人口は、2015年の1595万人(人口比12.6%)から、2020年には1503万人(同11.9%に)へと減少した。これは、少子化が続いていることを示している。若年層の姿は、日本の人口の未来を表している。若年層の数が減って行けば、働く人の数も日本全体の人口もさらに減ることになる。

生産年齢人口もまた、7735万人(60.9%)から7509万人(59.5%)に減少した。このように「人口に占める働く人の割合が下がる」ことが、本連載でもしばしば述べている「人口オーナス」であり、経済のパフォーマンスと深く関係してくる問題なので、後で詳述する。

老年人口は、3379万人( 26.6%)から3603万人(28.6%)に増えた。高齢化の進展である。高齢者の中の後期高齢者(75歳以上)は、1627万人(12.8%)から1860万人(14.7%)に増えた。「高齢者の高齢化」が進んでいるということである。

なお、今回公表された国勢調査確報の解説には、日本の人口構造の国際比較の記述がある。それによると、日本の年少人口が全人口に占める比率(11.9%)は、韓国(12.5%)やイタリア(13.0%)より低く、世界で最も低い水準だという。また、老年人口が全人口に占める比率(いわゆる高齢化率、28.6%)は、イタリア(23.3%)やドイツ(21.7%)よりも高く、世界で最も高い水準だという。

生産性上昇の意味を考える
人口オーナスを克服したのか

さて、こうした人口構造の変化の中で、私が最も注目しているのは、働く人の数が減り、それが人口に占める割合が低下することだ。いわゆる「人口オーナス」である。

人口オーナスになると、働く人が少なくなるから経済の活力は低下し、社会保険料を負担する人が少なくなるから、社会保障制度の基盤が揺らぐ。地域については、働く人が流出する地域では、地域の活力が弱まり、ますます働く人が流出してしまうという悪循環が生まれる。人口問題の根源は人口オーナスだと言える。

ではどうしたらいいのか。もちろん、出生率が上昇し、生産年齢人口が増えればいいのだが、なかなか難しそうだし、仮に出生数が増えても、その人たちが働き始めるまでには20年前後の時間がかかる。

この国政調査の確定値を報じた日本経済新聞(12月1日朝刊)は、「生産年齢人口、ピークの13.9%減」という見出しを掲げ、「経済活動の主な担い手となる生産年齢人口は、ピークだった1995年に比べ13.9%少ない。人口減少時代の成長は一人一人の能力を高め、生産性をどう押し上げるかにかかる(文章を簡略化した)」としている。

確かに、働く人が減っても、それ以上に生産性が上昇すれば、人口オーナスの経済的悪影響は防げるように思われる。

そこで、アベノミクスが始まってからの生産年齢人口と経済との関係を見てみよう。以下、2020年はコロナショックで経済が大きく落ち込んだという特殊事情があるので、2012年から2019年の間の推移を見ることにする。この間に、生産年齢人口は6.4%減少している。この減少を乗り越えるためには、生産性が6.4%以上上昇しなければならない。この間の生産年齢人口当たりの生産性上昇率は7.0%である(下図中上の線参照)。すると、日本経済は生産年齢人口の減少を生産性の上昇で克服したということになる。

ところが話はそれほど簡単ではない。労働力人口あたりの生産性、つまり実際に働いている人一人当たりの生産性の伸びはずっと低い。2012年から19年の伸びは2.1%に過ぎない(同下の線参照)。

このように二つの生産性の間に大きな差が現れるのは、生産年齢人口は必ずしも働く人ではないからだ。生産年齢人口であっても、学生や専業主婦は労働人口ではないし、生産年齢人口ではなくても、65歳以上で働いている人はたくさんいる(私もそうだ)。このため、生産年齢人口と労働力人口の動きは大きく異なる場合がある。2012年から19年の間に、生産年齢人口は6.4%減ったのに、労働力人口は4.9%も増えている。これは、それまで生産年齢人口であっても労働力人口ではなかった女性や、生産年齢人口ではない高齢者が働くようになったからだ。人手不足に悩む企業が、それまで働いていなかった層の人々を雇うようになったのだ。

つまり、生産年齢人口当たりの生産性がかなり上昇したように見えたのは、働き方が効率的になったからではなく、単に働く人が増えたからだったのだ。私はこれを「動員型の対応」と呼んでいる。

問題は、女性や高齢者を増やし続けるのには限界があるから、こうした動員型の対応はやがて行き詰まることだ。また、新たに働くようになった女性や高齢者は、非正規の場合が多く、一人一人の賃金や生産性が上がりにくい。技術革新の推進、教育投資の充実などにより、働く人がより効率的に働くようにならないと、持続的に人口オーナスを乗り切ることはできないだろう。

(『地域人』第77号掲載)

2022.06.01