著者
大正大学地域構想研究所教授
小峰隆夫
総務省から「令和2年(2020年)国勢調査人口速報集計」が発表された。その結果を紹介しながら、改めて人口問題について感じたことを書いてみたい。
減少が続く人口をどう評価するか 大都市圏と地方で二極化が進む
第1に総人口の変化を見よう。2020年10月1日現在の日本の人口は1億2623万人万人、15年より87万人の減少、減少率は0.7%である。これを見て私は「思ったより人口の減り方が少ない」と思った。前回の国勢調査(10~15年で0.8%の減少)より減少率が低かったからだ。これは外国人の増加によるものと思われ、20年の外国人人口は15年より80.4万人も増えている。この外国人の増加がなかったとすると、20年の総人口は約1億2500万人、15~20年の減少率は1.3%となっていたことになる。外国人の増加は、目に見えて日本の人口を左右しているのである。
第2に、地域別に見た人口の変化を見よう。この点では、大都市圏と地方部の二極分化が続いている。図の通り、15~20年の間に人口が増えたのは、東京、名古屋、大阪の大都市圏と福岡県、沖縄県で、それ以外の道県すべてで人口は減少した。
この二極化の動きは、「人口の増減率で見るか」「人口の増減数で見るか」「都道府県の数で見るか」によってやや印象が異なる。
例えば、人口の増減率で見ると、増加率が最も高い東京都が4.1%の増加、最も減少率の大きい秋田県が6.2%の減少となっている。その差はあまり大きくないように見える。しかし、これを人口の増減数で見ると、最も増加数の多い東京都が54万9千人の増加であるのに対して、最も減少数の大きい北海道は15万3千人の減少である。東京の増加数は北海道の減少数の3.6倍である。
また、都道府県の数で見ると、人口が増加した都府県は9、減少した道府県は38で、増加した都府県は減少した道府県の約4分の1だ。対して、増加した都府県の人口増加数を合計すると94.6万人、減少した道府県の減少数は181.4万人と、増加数は減少数の約2分の1である。
こうして、見方によって印象が異なるのは、人口が増えている大都市圏は、いずれも人口規模が大きい(沖縄県を除く)からである。
こうした人口減に対して、多くの自治体は「人口減少に歯止めをかけ、あわよくば人口を増やしたい」という戦略を取っている。例えば、国勢調査の結果を報じた日本経済新聞(2021年6月26日)は、千葉県の流山市の人口が、15~20年の間に14.7%増えたことを指摘している。同記事によると、流山市では駅前で児童を預かり、保育所までバスで送迎する行政サービスなどの子育て支援策を実施してきたのだという。
ただし、多くの自治体が流山市のような取り組みを行えば、それら自治体の人口が流山市のように増加するとは必ずしも言えない。流山市の人口が増えたのは、前述のように首都圏の人口が増加しており、その増加分を流山市がうまく吸収したからだ。全体としての人口が減少している地域で同様のことを期待するのは難しいのではないか。人口減少地域では、むしろ、人口が減っても住民福祉のレベルが低下しないような「スマートシュリンク(賢く縮む)」を目指したほうがいいのではないかというのが私の考えである。
世帯構造の変化にも重要な意味がある3世代同居減少が与える影響とは
第3に、世帯数の変化を見てみよう。世帯数は、2015年の5,345万世帯から20年の5,572万世帯へと4.2%増加した。人口が減っているのに世帯数が増えたわけだ。これを都道府県別に見ると、世帯数が減ったのは、高知県、秋田県などの6県だけであり、これ以外の41都道府県は増加している。逆に、増加率が高かったのは沖縄県、東京都、埼玉県などである。
この世帯数の変化は、「人口の変化要因」と「1世帯当たり人員の変化要因」に分けることができ、人口が増えるほど、また、1世帯当たり人員が減るほど世帯数は増える。20年の1世帯当たり人員は2.27人であり、15年の2.38人から減少している。これが、人口が減っているのに世帯数が増えた原因である。この1世帯当たり人員は全ての都道府県で減少している。前述のように、沖縄県、東京都などの世帯増加率が高かったのは、人口増加要因、1世帯当たり人員減少要因の両方が世帯数を増やす方向に作用したからであり、高知県、秋田県などで世帯数が減少したのは、1世帯当たり人員要因は世帯数を増やす方向に作用したが、それよりも人口減少要因が世帯数を減らす動きの方が強かったからである。
こうして核家族化が進行すれば、いわゆる3世代同居も減る。この1世帯当たり人員のレベルを都道府県別にみると、最も多い山形県が2.68 人、最も少ない東京都が1.95人となっている。地方部は3世帯同居比率が高く、都市圏ではそれが低いのだが、全国的に1世帯当たり人員が減っているということは、今や地方部においても3世代同居が減少していることを意味している。3世代同居が減ると、これからは地方部でも、保育や介護の社会化が求められるようになり、保育園や介護施設の整備が必要になるだろう。
人口の減少、地域の二極化、核家族化など、国勢調査の結果は、一見すると、いずれも常識的で特に目新しいわけではない。しかし、一歩踏み込んでみると、人口問題についていろいろ考える材料に満ちていることが分かる。
(「地域人」第72号掲載)