コロナ危機下の2021年経済の展望

著者
大正大学地域構想研究所教授
小峰隆夫

2021年経済のヒントはコンセンサス予想にあり

2021年以降の経済はどうなるのだろうか。

誰もが知りたいことだが、将来どうなるのかは誰にも分からない。もちろん私もエコノミストの一人だから、しばしば「これからの経済はどうなりますか」と質問される。「分かりません」とは言いにくいので、一応の考えを述べるのだが、これは私が「将来のことが分かるから」答えるのではなく、「聞かれたから」仕方なく答えるのである。

では、これからの経済については全く分からないのかというと、そうでもない。「エコノミストの常識から考えればこうなります」ということは言えるからだ。そのエコノミストの常識を知る有力な手段がある。日本経済研究センターが毎月行っている「ESPフォーキャスト調査」だ。この調査は、第一線で活躍しているエコノミスト約40人(最新の2021年2月調査では36人)にこれからの経済についての予想を答えてもらい、その平均値(コンセンサスという)を公表するというものである。毎月これを見ていれば、第一線のエコノミストが平均的にこれからの経済をどう予測しているかを知ることができるのである。

その結果を見てみよう。経済全体の動きを示す代表的な指標である実質GDP成長率は、コロナショックで大打撃を受けた2020年4~6月期(Ⅱ)にはマイナス29・2%(年率、以下同じ)という戦後最大の落ち込みとなった(以下、図①を参照)。しかし、続く7~9月期は逆に22・9%ものプラス成長となった。ここから先が予測になるのだが、10~12月期は8・0%(その後判明した実績は12・7%)と再び高い成長となった後、2021年1~3月期(つまり現執筆時)はマイナス5・5%となっている。その後は2~3%程度の成長が続く予測になっている。

 

これが第一線エコノミストのコンセンサス予想である。これは、単なる「平均的な予測」というだけではなく、詳しい説明は省くが、その特性上、個別の予想に対して常に「勝つ」か「引き分け」という結果になるため、「比較的正しい、つまりよく当たる予測」であることが知られている。

方向はプラスだが水準はマイナスという「実感なき景気回復」が続く

こうしたコロナショック下の経済変動の大きな特徴は、「方向はプラスだが、水準はマイナス」という状態が続くことだ。

2020年7~9月期以降の経済を見ると、緊急事態宣言が再発出された2021年1~3月期はマイナス成長となるが、これを除くと比較的高めのプラス成長率が続くと予想されている。つまり、経済は基本的には拡大し続けるわけで、「方向はプラス」になる。

なお、一般に「景気が良いか悪いか」の判断は、経済の方向に基づいて下される。すると、20年の7~9月期以降は「景気は回復している」状態だということになる。ESPフォーキャスト調査によると、第一線エコノミストたちのほぼ全員が、「景気の底は20年5月だった」と答えている。

ところが、図の②に示したように、経済の水準を見ると、ここしばらくの間は、コロナショック前(2019年10~12月期)を下回る状態が続く。2020年4~6月期の落ち込みがあまりにも大きかったため、元に戻るのに時間がかかるのである。最新のコンセンサス予想に基づいて水準を延長してみると、GDPが2019年10~12月期の水準を上回るのは、2022年4~6月期となる。つまり、経済は2020年4~6月期以降、約2年間、水面下に沈んだ状態を続けるのである。

ここではGDPを中心に議論してきたが、同じ議論は他の経済指標についても成立する。消費や企業の売り上げも、今後増えてはいくものの、コロナ前にはなかなか戻らないということになるだろう。各地域の経済も同じだ。例えば、今後観光客は徐々に増えていくだろうが、コロナ前のレベルを取り戻すにはかなりの時間がかかるだろう。個々の、小売店、外食産業も同じだろう。

このことは「実感なき景気回復」をもたらすだろう。「景気は上向いている」と言われても、多くの人は、「コロナ前の自分の店の売り上げはもっとあったはずだ」「コロナ前の給料はもっと多かったはずだ」と考えるからだ。

前述のコンセンサス予想は、今後ワクチンの接種も進み、新型コロナの影響は徐々に薄れていくという前提に立っていると考えられるが、仮にそうした順調な姿が実現したとしても、しばらくの間は、厳しい経済情勢が続きそうである。

「地域人」第67号(2021年3月10日発売)掲載

2021.05.28