アフターコロナにおける地方創生の新しい潮流

著者
大正大学地域構想研究所 教授
北條 規

ふたつのパラダイムシフト

新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大は、瞬く間に欧米、日本へと伝わり、世界を飲み込んだ。世界経済はブレーキがかかり、消費活動や生産活動を大幅に低下させるなど未曽有の経済不況を引き起こしている状況となっている。一方で、感染の広がりは、多くの分野で当たり前だと思われてきた常識が激変し、世界規模で経済・社会のパラダイムシフトを生み出している。

1つは非接触という行動変容が世の中の生活様式や価値観を大きく変化させ、テレワークやリモートワークと言われる在宅勤務がどんどん取り入れられたこと。皮肉にもコロナの前から言われてきた働き方改革の文脈が待ったなしの状況になっている。もう1つは、オンライン化の急激な拡大だ。対面を回避し、日常の買い物、セミナーや商談会、飲み会からツアー、病院の診察そして我々大学の授業までもオンラインで実施されるようになった。Zoomなどのソフトを活用しながらの新しいオンラインのスタイルが様々な場面で取り入れられている。

アフターコロナの潮流1:DXの加速

感染拡大は社会、地域、企業、家庭、個人を混乱に巻き込み、三密を避ける行動が求められる中で、今までにないニューノーマルに対応した商品やサービスの誕生につながった。新型コロナウイルスとの共存が必要となった今、これらの変化は新しいスタンダードとして社会や生活に定着してきているものもあり、緊急事態宣言のステイホーム下でデジタル体験したことで、国際的に遅れていた我が国のデジタル化の加速を生み出す要因となっている。

政府も新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、昨年12月に地方創生の方向性を決める「第二期まち・ひと・しごと総合戦略」の改訂版を閣議決定し、テレワークの推進と、デジタル分野の専門人材を派遣して市町村を支援するなどが盛り込まれた。アフターコロナの時代において官民ともに変革が求められているDX(デジタル・トランス・フォーメーション)、地方創生テレワーク、オンライン関係人口などのあらたな地方創生の取り組みを推進するとしている。DXの変革に遅れた我が国は、官民一体となってデジタル時代の劇的な事業環境の変化に対応してビジネスモデルを変革させなければ国際競争力を失ってしまう重要な局面を迎えている。地域にとってDXを推進する人材の育成・確保は急務となってきた。

アフターコロナの潮流2:東京集中から地域分散への意識

新型コロナの感染拡大によって、東京や大阪などの大都市圏への人口集中の弊害が露呈し、東京から人が流出する動きが顕在化している。2021年1月に東京都が行った緊急事態措置期間中の都内企業のテレワーク実施状況について調査によると、都内企業(従業員30人以上)のテレワーク導入率は57.1%。2020年12月時点の調査(51.4%)に比べて約6ポイント上昇。従業員規模別に導入率を比較すると、企業規模が大きくなるにつれて、導入率も高くなっている。

 

■都内企業のテレワーク導入率

出典: 東京都新型コロナウイルス感染症対策本部 報道発表資料
「緊急事態措置期間中の都内企業のテレワーク実施状況調査」令和3年1月22日、以下同じ

 

■従業員規模別によるテレワーク導入率

テレワークの拡大によって、在宅でも仕事ができることから、都内のオフィスにリスクをかけて満員電車で通わなくても働ける労働環境に変化してきたことがわかる。副業を認める企業も増えてきていることから、働き手の居住地選択の自由度が高まり、地方都市に暮らしながら、首都圏の企業人として仕事ができるようになってきている。また、総務省が2020年11月に発表した住民基本台帳の人口移動報告によると、10月の東京都からの転出者数は30,908人で昨対10.6%の増加、転入者数は28,193人で昨対7.8%減少し、四か月連続で転出者が上回っており、人口の地方分散の変化の兆しが生まれていると指摘している識者もいる。

また、内閣府の「新型コロナウイルス感染症の影響下における 生活意識・行動の変化に関する調査」によれば、今回の感染症の影響下において、地方移住への関心について質問したところ、東京23区では20代の35.4%が移住に関心をもっている。三大都市圏全体でも22.1%が関心を持っていることがわかる。

 

■今回の感染症の影響下において、地方移住への関心に変化はありましたか。
出典:内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における 生活意識・行動の変化に関する調査」、令和2年6月21日

 

これらの傾向が人口減少の著しい地方への人口移動になると期待するのは早計過ぎるが、都市部の「蜜」から「疎」への意識は高まっているのは確かだ。

コロナ対策から導入されたリモートワークによって通勤日数が減少したことで、勤務先や仕事を変えることなく、住まいを地方都市や郊外に移すライフスタイルが可能になってきた。これまで移住促進のネックは移住先での収入の確保である。地域への移住を意思決定する際に、雇用のリスクによって移住を断念するケースも多かったが、最近は副業も認められる職場環境にもなってきており、複数の仕事で収入構成を組み立てる人も今後増えてくることが予想される。

さらに、リモートワークに舵を切った企業は家賃の高い不要なスペースを見直す動きが加速しているほか、従業員の安全確保、災害への対応と企業活動の維持(BCP)という観点でも、東京集中から地方への分散によってリスクを回避する傾向は今後強まっていくと考えられる。これまで地方創生第一期の五か年で様々な施策を講じながら、東京一極集中の是正はできなかったが、これからのポストコロナ時代において、社会構造の変革が求められていることから、潮目が変わっていることを各自治体は意識した政策を推し進めていかなければならない。

アフターコロナの潮流3:多様な働き方・暮らし方へ

これらの傾向が人口減少の著しい地方への人口移動になると期待するのは早計過ぎるが、都市部の「蜜」から「疎」への意識は高まっているのは確かだ。リモートと副業との組み合わせにより、二拠点居住や二拠点就労がなど多様なライフスタイルが増え、働く場所と暮らす場所再設計が推進されるとともに、それに対応した教育、医療、子育て支援等のサービスの変革も求められる。また、第二期の地方創生総合戦略・改定版には地方創生のテレワークの推進が盛り込まれ、地方創生テレワークの交付金には100億円の予算を用意し、「新しい生活様式」に必要なテレワークを地域に普及させ、地域分散型の活力ある地域社会の実現に貢献の創設や整備事業の推進などを計画している。

しかし、これまでも全国で個が集まるサテライトオフィースやシェアオフィース、コワーキングスペースなどがオープンしてきたが、成功事例は決して多くはない。施設を用意すれば有機的なつながりが創出され、地域に人の流れができると想定しているが、人と人をつなぐコミュニケーターや内外の人材の知見と経験、ノウハウをコーディネートする人材がいなければ、成功にはつながらない。ワーケーションなどと組み合わせるなど、異業種連携の有効性の高い地域戦略を期待したい。

さて、コロナの感染拡大によってリモートが導入されたことで、地域、時間、組織、職場、業界を超えたつながりの中で価値を創出できる時代となってきている。こうした潮流を捉え、地域は多様な人材や企業、ネットワークとつながって新しい地方創生の実現に向けた取組を加速しなければならない。今回のアフターコロナの時代に生まれてくるトレンドを見据えて、国の実効性のある政策の下、自治体と企業そして地域のステークホルダーが互いの垣根を越えて連携を図りながら、取り組むことが重要である。

2021.02.01