『地域人』第52号では、経済学の”道具”として地域創生に貢献できそうなものとして「EBPM」「ナッジ(Nudge)」「フューチャー・デザイン」「スマート・シュリンク」の4つを紹介した。今回はEBPMの基本的な考え方と枠組みについて紹介する。
欧米で急速に導入が進むEBPM 国内ではまだ緒に就いたばかり
EBPMというのは、「Evidence Based Policy Making」のことで「証拠(エビデンス)に基づく政策立案」と言われているものだ。では、”エビデンスに基づく”とはどういうことなのか。
ここで取り上げている三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「エビデンスで変わる政策形成(政策研究レポート2016年2月12日)は、エビデンスに基づく政策を国家的に推進しているイギリスへの現地調査、及び文献調査の結果をレポートしたもので、大変参考になる。今回の記事も、このレポートに基づくところが大きい。
EBPMは、欧米で急速に導入が進んでいるが、それには財政制約が厳しくなる中で、政策資源を効率的に配分していこうという動機があったとされる。日本ではまだ緒に就いたばかりだが、国のレベルでは急速にその考え方が浸透しつつあり、各省庁ではEBPMの責任部署を定め、担当官を置いて、活用に取り組み始めている。また、地方公共団体でも取り組む自治体が増えつつある。
EBPMの第一歩は「ロジック・モデル」の作成である。ロジック・モデルというのは、その事業が最終的に目指す目標を、どのような道筋で実現しようとしているのかを体系的に図示したものだ。一般的には、インプット(政策的にどんな資源を投入するのか)→アクティビティ(政策の具体的な活動)→アウトプット(政策によって何を生み出すのか)→アウトカム(活動によってどんな成果が得られるのか)→インパクト(政策によって最終的にどんな変化が生まれたのか)という順番で示されることが多い。
一方、エビデンスには「現状把握のためのエビデンス」と「現状効果把握のためのエビデンス」がある。就労支援プログラムの場合で考えると、まず、現状把握のためのエビデンスとして、無業者の数や失業給付費などがある。こうした現状を把握して、その政策対象の量的・質的重要性を把握しておく必要がある。日本では、本当にこの政策を求めている人がいるのか?と思わせるような政策が出てきたりするのは、現状把握のためのエビデンスが足りないからだ。
政策効果把握のためのエビデンスは、前述のロジック・モデルの各段階の具体的なデータで、例えば「インプット」は、その事業のために投じられた予算や人員。「アウトプット」は、プログラムへの参加者数。「アウトカム」は、受講者がスキルアップした程度や就業状況の改善度合い。そして「インパクト」は、参加者の将来所得やそれによる税収といった具合である。
さて、ここで重要になるのが因果関係だ。例えば、AとBが同方向に変化した場合、「Aが原因となってBという結果が生じた」のか、逆に「Bが原因でAが結果」なのかを確かめる必要がある。もしくは、「Cが原因となってAとBが同時に生じている」という別の要因が作用している可能性もある。こうした因果関係をデータによって確定しようというのが、次に述べるRCTの手法である。
EBPMは政治的介入を排して 合理的政策立案が可能な有力手段
因果関係におけるエビデンスの質の高さを整理したものが下の図である。先に述べた因果関係が特定され、政策的な効果が明瞭になるのが質の高いエビデンスとなる。
上に行くほどレベルが高いが、この階層図の中で最も質が高いとされているのが1aと1bに登場しているRCTという手法だ。
これはランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial)と呼ばれ、医薬品の効果判定では広く使われている。新薬の効果を確かめる場合、同じような状態にある患者を二つのグループに分け、一方には新薬を投与し、もう一方には効果のない偽薬(プラシーボ)を投与。二つのグループの差を分析して、新薬の効果を確かめようというものだ。
これまで、RCTは経済・社会現象については実験ができないとされてきたのだが、近年はデータの集積、分析手法が高度化してきたため、 経済・社会分野にも実験的な手法を適用することが可能になってきている。こうした分析技術の向上とデータ整備の進展が、近年EBPMが広まってきた背景である。
政府も地方公共団体も、これからは限られた予算をできるだけ効率的に使いながら、時には国民、住民に痛みを強いるような政策にも取り組む必要がある。そんな時、EBPMはポピュリズムや政治的な介入を排して、合理的な政策を立案するための有力な手段となる。このように考えていくと、EBPMは日本でこそ、先端的に進めるべきだと思える。
このEBPMは、地方創生という観点からも重要な役割を果たしそうである。
⇒続きは『地域人』Vol.54で!