日本の出生率(合計特殊出生率)は、ここ数年1.4をやや上回るレベルで推移している。最新の2018年(平成30)は1.42となり、2015年の1.45からむしろやや低下気味である。
出生率の動きは、2つの要因に分解することができる。なお、ややこしくて恐縮だが、以下で言う出生率は合計特殊出生率(女性が一生の間に平均何人子どもを産むか)ではなく、有配偶女性1000人当たりの出生数のことである。
第1の要因は、有配偶率(結婚している女性の割合)である。日本ではほとんどの子どもは、結婚したカップルから生まれているので、結婚しない人が増えると必然的に子どもの数も減ってしまう。第2の要因は有配偶出生率、つまり、結婚したカップルが何人子どもを持つかである。
では、この2つの要因のどちらが近年の出生率の低下に影響しているのだろうか(下の表参照)。日本の合計特殊出生率は、1980年(昭和55)の1.75から2015年には1.45にまで低下している。この間、有配偶率は、64.0%から56.3%へと大きく低下しているのに対して、有配偶出生率は77.8%から75.9%へ、わずかな低下にとどまっている。近年の出生率の低下は、もっぱら「結婚しなくなったこと(未婚化)」が原因であることがわかる。
若者の所得基盤の不安定化が未婚要因を引き上げている
この未婚化が出生率に及ぼす影響は、かなり大きい。大石亜希子千葉大学教授が計算した結果によると、仮に1990年以降、未婚化が進まなかったとすると、2010年時点での出生率は1.80、出生者数は141万人となっていたことになる。実際の2010年の出生率は1.39%、出生数は107万人だったから、この間の未婚率の上昇は、出生率を0.41ポイント引き下げ、出生数を34万人も減らしたことになる。
では、なぜ結婚しない人が増えたのだろうか。その理由としては、次のような点が考えられる。
まず、若者の経済的基盤が不安定化したことだ。就職難、雇用の非正規化などによって若者の所得基盤が不安定になると、結婚したくても結婚できなくなってしまう。内閣府「少子化社会対策に関する意識調査」(2018年)では、結婚を希望している者で結婚していない20~40歳代の男女に、どのような状況になれば結婚すると思うかを聞いている。最も多かったのは「経済的に余裕ができること」(42.4%)だった。また、総務省の「就業構造基本調査」(2017年)によって、正規と非正規の労働者(男性)の有配偶率を比較すると、すべての年齢層において、非正規労働者の有配偶率の方がかなり低い。例えば、30~34歳層では、正規労働者の有配偶率は59.0%だが、非正規労働者は22.3%である。やはり雇用面、収入面での基盤が重要なのだ。次に、結婚したくても相手が見つからないことだ。国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」(2015年)によると、18~34歳層で「独身でいる理由」として一番に多かったのは「適当な相手にめぐり合わない」(男性45.3%、女性51.2%)であった。
なぜ、適当な相手が見つからなくなったのか。これには女性の「上方婚」、男性の「下方婚」が影響しているという考えがある。これはいくら男女平等になったとはいえ、現代においても女性は「自分よりも学歴や収入が同じか上の相手」を求め、男性は「同じか下の相手」を求める傾向があるという考えだ。この考えが変わらずに、女性の学歴や収入が高まっていくと、おのずから相互の選択の幅が狭くなっていってしまうことになる。
結婚したい人が結婚できる環境と政策が必要
ここまで述べてきたように、結婚しなくなったことが少子化の有力な要因だとすると、このことは政策的に難しい問題を引き起こす。地方では、お見合いパーティーを開いたりする例があるようだが、国のレベルでは結婚に直接働きかけることは難しいからである。一人一人の価値観にかかわる問題だから、国が政策的に結婚を奨励したりしたら「国にそこまで言われたくない」と反発を受けるだろう。
しかし、諦めるのは早い。結婚が減っているのは「結婚したくない人」が増えたからではなく「結婚したくてもできない人」が増えたからだ。結婚したい人が、結婚できるような環境を整えていけば、結婚は増やせるはずである。そのための政策としては、次のようなことが考えられる。
第1に、未婚化の背景には若者の雇用問題がある。経済を元気にすれば、正規・非正規の格差を是正することができるだろう。また、流動的な雇用環境を整えていけば、若年層へのしわ寄せを減らし、生活基盤を安定させ、有配偶率を引き上げることもできるはずだ。幸い、このところ雇用情勢は急速に好転している。この機会を生かして、若年層の雇用環境を改善していけば、結婚も増える可能性がある。
第2に、結婚前と結婚後のステージは相互に影響しあっているはずだ。仕事と子育てが両立しやすく、十分な子育て支援が用意されていれば、それが結婚前のステージにおける将来の期待に影響し、結婚しやすい環境を準備することになるだろう。要は、社会全体が結婚にフレンドリーな環境を準備していけばいいのである。
少子化に対抗するためには、構造改革としての働き方の見直しを進めていくとともに、現在先進諸国に比べて見劣りがする、家族政策への予算配分を増やし、女性が就業と子育てを両立できるような環境整備が必要となるのである。