文化と地域創生

地域創生とレジリエンス

レジリエンスは、近年、持続可能な目標(SDGs)の項目でも取り入れられているように、地域創生や活性化の重要な要件になっています。レジリエンスとは、元々、回復力といった意味でしたが、近年では災害や貧困、経済の再生など都市や地域の課題に柔軟に対処・克服して再生していく力やしなやかな強さという概念で使用されています。つまり、レジリエントな社会とは、地域問題に直面した際に、多様な人びとが一致団結して迅速に柔軟に対応する社会であり、地域経済の発展や再生の機会が訪れる際に、それに乗じる準備や対応を公共的な利益に即して協力し合い、地域一体となって取り組める社会のことであるといえます。したがいまして、地域創生には、レジリエントな社会を構築することが重要な要件となってくるのです。

レジリエンスと文化

では、なぜ文化とレジリエンスが結びつくのでしょうか。地域文化は、コミュニティや地域住民によって歴史的にストックされ、再生産されてきたものです。そのため、文化の再生産過程(文化の継承・振興・創生)には、地域住民の連帯感や同じアイデンティティが存在します。こうした地域の文化活動を通じて、文化の継承・振興・創生はもとより、コミュニティも維持され、再構築されているのです。先述のように、レジリエントな社会が、地域の課題や目標に対して地域住民一体となり取り組める社会であるならば、文化はそうした土台または基盤になっているといえるのです。つまり、レジリエントな社会の構築には文化が重要な役割を果たすというわけです。

奄美大島・龍郷町の観光振興の方向性と文化

世界自然遺産登録の申請を機に観光振興による地域の再生を目指している鹿児島県龍郷町における観光振興の方向性と文化との関係をみてみましょう。龍郷町は、移住者が多く、奄美群島のなかで唯一人口が増加している、奄美市の中心市街地からも車で30分ほどの所に位置しているまちです。移住者の人たちのほとんどが、ダイビングやカフェなどの観光関連事業や地域おこし隊などに従事しています。特筆すべきは、龍郷町では、文化継承や自然環境保全の枠組みの中での観光振興がなされていることです。では、観光事業者に従事している移住者が多いなかで、そうした利益追求型ではない観光振興を可能にしているものは何でしょうか。

まず、龍郷町に限ったことではありませんが、奄美群島の島民には、移住者を受け入れる寛容性と相互扶助の文化が暗黙知化され、浸透していることがあげられます。そうした他者との共生の文化を背景として、移住者は集落で受け入れられ、子ども会、婦人会、島唄や三味線などのグループなどの何かしらのグループに属し、集落の伝統文化であるお祭りなどの年中行事で分担された仕事を担い、地域文化を共に継承しています。移住者は、そうした地域の文化活動を通じた社会関係性の中で、集落の伝統文化や住民の地域への思いを理解しつつ、自然に集落の担い手になっていくのです。その結果として、地域の伝統文化継承や自然環境保全を枠組みとした観光振興を行う意識が生まれています。このことが、最終的には地域経済の維持可能な発展につながるのです。

たとえば、ある移住者が経営しているジェラート店では、無農薬の奄美大島産の果物やサトウキビなど、こだわりの食材を地元農家と契約することで、ここでしか手に入らない商品を販売し、地元の人から観光客まで幅広い人たちに人気の店になっています。地域の担い手となった移住者が、島外の洗練された新たな風を島に吹き込み、地元の食材を使用して現地化した新たな財やサービスを生み出しています。同時に、地元の他産業と関連づくことで、少なからず地域内の経済循環を創出しているのです。こうした点が面となることで地域経済が活性化し、維持可能な地域経済の発展に結び付くのです。

レジリエントな社会の構築に向けて

このように、地域文化の継承・振興・創生が経済構造につながっています。草の根の文化活動の一つ一つが今後の地域や地域経済の発展を左右するといっても過言ではありません。地域で文化意識を育て、地域文化を継承・振興してくためには、地域の文化団体などがそれを継続的に担っていく必要があります。そのためには自治体による文化支援や地元の文化団体との連携が重要です。したがって、レジリエントな社会の構築に向けて、自治体は文化支援や政策のあり方を再考し勘案していくことが重要になってくるでしょう。

 

<参考文献>
 清水麻帆「文化を基盤としたレジリエンス-奄美の維持可能な発展への挑戦-」
『創造社会の都市と農村-SDGsへの文化政策-』佐々木雅幸総監修 水曜社 2019年6月

2019.10.15