地方創生に新風を吹き込む「関係人口」

著者
大正大学地域構想研究所 客員教授
河合 雅司

特定の地域を継続して訪問する「関係人口」が、注目を集めている。

人口減少に悩む地方自治体は、移住者の受け入れに力を入れてきたが、成果が上がらないためだ。都会には週末を〝お気に入りの地〞で過ごそうという人が珍しくないことから、定住者でなくとも訪問者が増えれば地域は活性化するという割り切りである。

国土交通省が三大都市圏に住む18歳以上の約4678万人を対象に関係人口の実態について初めて調査をしたところ、23.2%にあたる約1080万人であることが分かった。

かなりのボリュームだが、全員が人口減少自治体を訪問しているわけではない。東京都に住む関係人口の41.4%は首都圏の都市部を、大阪市在住者は55.1%が近畿圏の都市部を訪問先として選んでいた。三大都市圏ではなく、政令指定都市や中核市でもない、いわゆる「地方」を訪れている人は、東京都で28.5%、大阪市で21.0%にとどまっている。

問題はそれだけではない。訪問理由を見ると、飲食など「趣味・消費型」が最多の約489万人(全体の10.5%)なのだ。半数近くは、〝何度も訪れる観光客〞のような存在なのである。関係人口を地域おこしの助っ人としたい自治体としては、さらに深い関係を築いてもらわなければならない。

それには訪問先と積極的な関わりを持つ人たちが、どんな目的・動機で訪れているかを知る必要がある。これについても国交省の調査結果で示されているが、最も多かったのは地域の人々と交流したり、イベントなどに参加したりする「参加・交流型」の約272万人(全体の5.8%)であった。

次いでテレワークや副業、農林水産業などに従事する「就労型」が約181万人(同3.9%)、産業創出やまちづくりなどに参加する「直接寄与型」が約141万人(3.0%)だった。

「趣味・消費型」の人に、いかに積極的に働きかけるかがポイントになるということだが、まずは地元住民との接点をなるべく増やす工夫をすることであろう。

例えば、訪問者が重い荷物を抱えて都会と往復しなくても済むよう、趣味で使用する大型用具を次回訪問時まで預かる場所を提供してはどうだろうか。

地元イベントへの参加をする人向けに、関係人口の交通費の一部を自治体が補助してもよい。

接触機会が増えたならば、次は訪問者が自己実現できる場を設ける段階へと移る。
国交省の調査では、訪問先と最も濃厚な関係を築いている「直接寄与型」の人が訪問地との関係を続ける上で重視している点も調べているが、「人との出会いやつながりがあり、共感を得られる」が一番多く、「楽しい。リフレッシュできる」「生きがい、自分らしさ、成長などを実現できる」が上位に並んだ。

多くの人は、都会では手に入れづらい「居場所」と「役割」を訪問先に求めているのである。

具体的には、観光戦略づくりや地場産業の活性化、環境保護といった行政のアドバイザーとしてシンポジウムに参加を求めたり、お祭りなど地域イベントの実行委員会の臨時メンバーとして迎え入れたりするのもアイデアだ。

訪問者が専門的な資格や知識、 人脈を持っているならば、自治体がマッチングの機会を整え、地元企業の無償経営コンサルタントを依頼するのも選択肢となろう。

商店街の空き店舗を無料で貸し出し、個性的な商品を集めたフリーマーケットのようなイベントを毎年開催するのもおもしろい。

これまで政府は、地域の人口を維持・増大させる支援策に力点を置いてきたが、新風を吹き込む関係人口が増え、1人が全国各地を転々と動き回るようになれば、地方創生の在り方そのものが大きく変わることとなる。

 

 

 

 

2020.07.01