寺院から考える地域包括ケアシステム

著者
大正大学地域構想研究所 助教
髙瀨 顕功

前回記事に引き続き、宗教法人として通所型介護施設を運営する2つの寺院を紹介します。

明善寺デイサービスあんのん

富山県氷見市にある明善寺(浄土真宗本願寺派)は、富山型デイサービスを提供する「あんのん」を運営しています。

ご住職は、もともと障害者福祉施設の職員。施設外実習で市内のNPO法人に行ったとき富山型デイを知り、驚きとともに、感銘を受けたとのこと。奥様もケアマネージャーとして高齢者の介護に携わっていたこともあり、「お寺でこれができたら」と立ち上げを決意したそうです。

ところが、施設を建てるには境内はそれほど広くない、庫裏を改修して使うにも広さが不十分。計画は頓挫したかに思われましたが、門徒さんに相談したところ、門前の土地を寄進してくださったとのこと。また、ケアマネージャーの奥様の勧めで、介護福祉士を取得し、2012年、あんのんは開所しました。

開放的なオープンスペースには、畳の小上がりもあり、そこには仏壇も置かれています。住職は、押しつけがましくならないよう気を付けているとおっしゃっていましたが、生活空間の中で自然に手を合わせる人が多くみられるとのことでした。

善福寺デイサービス聚楽

富山県南砺市にある善福寺(真宗大谷派)では、2005年に聚楽(じゅらく)を立ち上げ、富山型デイサービスを提供しています。

聚楽立ち上げの原動力は、住職ではなく坊守さん(住職伴侶)。もともと、富山県の職員として特別養護老人ホームで介護職として勤めていらっしゃったとのことですが、お寺の住職のご両親がお亡くなりになったのをきっかけに退職されたそうです。介護の仕事が好きだったため、近隣の高齢者向けに特養でやっていたプログラムをしたところ大変喜ばれた経験から、お寺にいながらでも地域の中でできることがあるのだという気付きがあったようです。地域の小さいお寺が頑張ってデイサービスしていることを知ってほしいとの思いから「宗教法人」で事業を立ち上げたとのことでした。

聚楽では、庫裏(住居部分)を改修し、デイサービスの場所としていますが、本堂では毎月行事があるため、利用者さんは足を運んでいるとのこと。法話を聞いたり、正信偈(しょうしんげ)を唱えたり、お寺の行事がデイサービスのプログラムになっているようです。

寺院と地域 ―富山型デイサービスのこれから

本調査にあたって富山県庁厚生部厚生企画課を訪ねたところ、県民を対象にしたアンケート調査では、将来介護が必要になった場合、住み慣れた地域での生活を希望すると答えた割合は67.7%にものぼり、ますます地域密着型の富山型デイサービスが求められているようです。行政としても、地域でそういう支援ができる場所があれば、積極的に支援をしていきたいとのこと。寺院(宗教法人)だからと言って制限することはなく、むしろ広さもあるし、過ごすにはよい場所ではないかと思っていらっしゃるようです。

一方、紹介した3つの寺院(専正寺、明善寺、善福寺)は、いずれもこれからの寺院のあり方に、危機感をもっていらっしゃいました。真宗王国の富山県とはいえ、寺離れは進み、寺院に対する世間の厳しい目も実感しておられるようで、これから寺院が存続していくために地域社会で必要とされる存在でなければならないという思いが強くありました。

各寺院は情報を交換だけでなく、ノウハウを共有したりと、助け合いながら事業を進めていることもわかりました。また、何人かの僧侶の方が「うちのお寺でもやりたい」と話を聞きに来たり、お手伝いに来たりしている事例もあるようです。このように、富山県下では寺院をデイサービスの場にという動きが、宗派を超えて広がりつつあります。

地域にとっても、寺院にとっても、これからあり方を考える上で、富山型デイサービスは示唆を与えてくれるものでしょう。

2019.12.02