市民協働政策でソーシャルキャピタルを高める

著者
大正大学地域構想研究所 教授
首藤正治

いわき市の「共創のまちづくり」

先日、地域創生学科において私が担当している「地域学基礎論」の授業で、友人の清水敏男いわき市長にゲスト講師として参加していただいた。大震災からの復興状況に続き、彼はいわき市の「共創のまちづくり」の話をしてくれた。その意味として、「地域の課題の解決を目指し、市民の参画及び市民と市の連携の下に相互の知恵と資源を結集して、新たな価値を創出」することという説明があった。

「共創」は、もともとはCo-Creationの訳語としてマーケティング分野で使われていた用語だが、今や広範に使われるようになっていて、本学の「豊島区との共創事業」というような表現にも違和感はない。

いわき市の場合は、「市民協働」というプロセスをもはや当たり前の前提として、「新たな価値を生み出す」というところに力点があるのであろう。市民協働の進化形とも言えようか。

振り返ってみると、私が新米の市長として意気込んで「市民協働のまちづくりを進めましょう」と叫んで回っていた十数年前には、多くの方から「何ですか、それ?」と言われ、説明に四苦八苦したのを覚えている。時代は変わった。

「協働共汗道づくり事業」の成果

この、今や当たり前になった「市民協働のまちづくり」とは、「市民や民間企業など多様な主体が行政と対等の立場で、同じ目的のためにいっしょになってまちづくりに取り組むこと」を意味するのはご承知の通りだ。具体的には、地域住民による都市公園の管理、地域の伝統文化の継承、自然災害対策などなど、挙げていくときりがないほど多岐にわたる活動が全国で展開されていて、市民や団体から申請のあった事業に行政側が補助金をつけるという仕組みを設けている自治体も多い。

これはまさしく住民自治の原則に即した取り組みなので、市民サイドから見ると、自分たちのニーズにマッチした行政サービスの実現という利点がある。一方で、行政の側から見れば、その事業を丸ごと市の職員と予算だけで実施するよりもはるかにコストを抑えることができる。

そのため、市民の中には、「きれいごとのスローガンでうまいこと言っても、結局は予算削減のためじゃないか」と冷ややかに見る向きすらあるくらいだ。

実際、初めから崇高な「協働」の理念のもとにスタートした事業ばかりではない。例えば、延岡市で10年ちょっと前から実施している「協働共汗道づくり事業」は、文字通り住民みんなで共に汗を流して簡易な市道補修などをやろうというものだ。

それまで、ちょっとした市道改良とか補修の要望は数多いため、予算配分の都合上、実施まで数年待ちとなるのが普通だった。昔はもっと公共事業に予算を割ける時代もあったが、社会保障関係費が爆発的に増えたあおりを食って道路整備などの予算は激減したという背景もある。

そこで、工事の中でも簡易なものについて、地域住民の皆さんが自ら作業を行うのであれば市から材料・器具などを提供して優先的に実施しますよというのがこの事業だ。これによって、地域のニーズに合ったスピード感のある整備が可能となる。

有り体に言えば、市としては限られた予算の中で住民のニーズに早く応えるための苦肉の策だったわけで、それに地域の皆さんはなんとか早く整備したいという一念で取り組んでくれた。

ところが、実際に事業を行った地域で、結果として、スピーディな整備ということを超えた成果が出た。従来は、朝夕にたまたま顔を合わせたときに挨拶するという程度の付き合いしかなかった近所の人たちが、作業で共に汗を流したことによって格段に仲が良くなり、飲み会が開かれたりして地域に一体感が生まれたのだ。ここで起こったことはまさに、コミュニティの再生である。

交流が目的で事業を行ったわけではないのに、そこからこのような想定を超える成果が生まれたことで、市としてもむしろその「地域の絆づくり」を意図して今後の展開を図ろうという発想に変わった。

公園のちょっとした整備・管理を「協働共汗公園づくり事業」、農道や林道の整備を「協働共汗農道林道整備事業」、さらには災害時の避難路整備を「協働共汗避難路整備事業」という具合に「協働共汗」の冠を付けてシリーズ化していきながら、さまざまな局面で地域の絆を強化できないかと考えたわけである。前述したような反発も当然出てこようから、市職員も地域の集会やボランティア作業などには積極的に参加しようという呼びかけも行なった。

協力原理の具現化とソーシャルキャピタルの高揚

こうした事例を通して、そこに通底する(神野直彦東大名誉教授の言う)「協力原理」を実感することができる。

資本主義国家の日本において競争原理は社会の活力の源にほかならないが、他方、(家族や友人の幸せは自分の幸せでもあるからお互いが協力し合うというような)「協力原理」が存在すると神野先生は指摘する。日本社会の経済システムが競争原理で回っているのと対照的に、政治システムや社会システムにおいてこの協力原理がもっと働くよう意図すべきだという主張である。

そうした考え方を踏まえると、先述のような市民協働事業は協力原理を具現化する仕掛けでもあり、また、ソーシャルキャピタルを高める仕掛けでもあると位置付けることができよう。

2019.06.17