安心できる居場所としての寺院

著者
大正大学地域構想研究所 研究員
小川有閑

Covid-19への政府・自治体の対策への批判として、インターネット等で散見されるものの一つに、「コロナによる死者を減らすことで、経済で亡くなる人を増やすのか」といった論調がある。つまり、緊急事態宣言等の自粛ベースの対策によって、経済活動が停滞し、経済的に苦境に陥る人が増え、自死者が増加するのではないかという批判である。この論調が当を得ているかをここで論じるつもりはないが、現実に昨年の自死者数は一昨年に比べて増加したことは確かだ。

日本の年間自死者数は、1998年から2011年まで14年連続で3万人を超えていたが、2012年に27,858人と3万人を割り、年々、徐々にその数を減らしていた。しかし、コロナ禍に見舞われた2020年は、前年の20,169人から908人増の21,077人となった。その男女の内訳は男性14,052人、女性7,025人と男性が多い。だが、この比率は長年にわたり変化はない。それよりも、前年と比較して、男性は26人減少、女性は934人増加と、女性の自死が著しく増加している。また、若者の自死も深刻な増加傾向にある。10代、20代の自死者数が2019年に659人、2117人であったのに対し、2020年は777人、2521人と増加をしており、増減率でみると各世代の中で20代が19.1%、10代が17.9%となり、3位の80代8.0%を大きく引き離している。(2021年に入っても、1月から3月までの累計自死者数5,334人(暫定値)は対前年比426人増となっている。https://www.mhlw.go.jp/content/202103-zantei.pdf

2020年の自死の増加に関する研究では、第1波(2月~6月)では、過去3年間の同時期と比較しても低い自死者数であったが、第2波以降(7月~10月)に増加が見られたことに関して、第1波の減少は、給付金の支給や労働時間減少・一斉休校が影響している可能性が、第2波以降の増加には、女性・若年層の雇用喪失、DV相談の増加に見られる家庭環境の悪化などが、特に女性と子供の自死に影響している可能性が指摘されている。(Tanaka, T., Okamoto, S. Increase in suicide following an initial decline during the COVID 19 pandemic in Japan.Nat HumBehav (2021). 日本語版「新型コロナウイルス感染拡大下で自殺者数はどのように変化したのか」はこちらで閲覧可能)下記グラフを見ても、20歳未満は6月から、20代は7月から前年を超えていることが分かる。そもそも年間の自死者数が減少傾向にあるなかでも、10代の自死者数は減っていなかった。そこに、Covid-19の感染拡大により、家族関係の悪化、DV・性被害、孤立・孤独、将来の希望・目的の喪失などが生じ、若者の生きづらさが高まってしまったと考えられる。生きづらさを抱えた10代・20代の女性を支援するNPO法人BONDプロジェクトが実施した「10 代20 代⼥性における新型コロナ感染症拡⼤に伴う影響についてのアンケート調査」は6月の実施であるが、経済環境の悪化が家族関係の悪化につながっていること、逃げ場所・居場所の喪失、相談・支援の縮小といったその後の若年・女性の自死の増加を予感させるような現実社会の課題が浮き彫りにされている。また、この時期には、著名人の自死も相次いでおり、自死報道による若年者への悪影響(ウェルテル効果)も懸念される。

このような状況に対して仏教者はどのような活動をしているだろうか。

2007年結成の「自死・自殺に向き合う僧侶の会」では、手紙相談・自死遺族の分かち合い・自死者追悼法要を主な活動としているが、感染対策のために、分かち合い・追悼法要ともに対面式は実施しておらず、オンラインでの開催となっている。手紙相談では希死念慮を持つ人や自死で家族を失った人からの相談を受けるが、若年層に特化した活動は現状見られない。

その点、興味深いのは、僧侶が中心になって設立した認定NPO法人京都自死・自殺相談センターSOTTOの活動だ。若年層が相談しやすいようメール相談を行っており、相談者はやはり若年層が多いという。(2021年4月27日時点で相談多数のため新規受付休止中)また、感染対策を施しながら対面の集いも実施している。それが「ごろごろシネマ」と「おでんの会」だ。いずれも京都市内の寺院を会場に、生きづらさを抱えた人、孤独感に苛まれている人が集う。温かい雰囲気のなかで映画をゴロゴロ見る「ごろごろシネマ」、いろいろな具材が入って美味しくなるおでんにたとえて、様々な人が集まって身も心も温まる居場所を作るという目的の「おでんの会」、カウンセリングや傾聴を前面に出すのではなく、気楽に集えるゆるい雰囲気が、足を運びやすくさせているのだろう。

増加傾向にある自死の深刻さに対して、仏教者の取り組みは十分とはとても言える状況にはないが、SOTTOの事例が示唆するように、若者にとって安心できる居場所、逃げ場所としての可能性を寺院は有していると言えるだろう。

2021.04.30