起業家育成の進め方(3)

著者
大正大学地域構想研究所 特命教授
山本繁

志向の補完関係を目指す

起業家育成の進め方(2)では、「起業の目的」や「ビジネスモデル」をテーマに起業家を育成する側の役割について考察した。本稿では「経営チーム作り」を取り扱う。

起業家は2人目、3人目のメンバーをどういう基準で採用すればよいのだろうか。

以下は働く人をスピードor正確さ重視、成果or感情重視の2×2でタイプ分けしたものである。

①スピード×成果重視タイプ
②スピード×感情重視タイプ
③正確さ×成果重視タイプ
④正確さ×感情重視タイプ

このスピード、正確さ、成果、感情のそれぞれを重視する性質は、基本的には全ての人が有するものである。それらのバランスを取りながら人は働いている。そして状況に応じて人は適宜そのバランスを変える。

起業家は、起業の準備段階から「①スピード×成果重視タイプ」にシフトしていくことが一般的に多いのではないだろうか。手持ちの資金が無くなる前に事業を黒字化させなければならないというプレッシャーにより、いち早く成果をあげることを優先するようになるからだ。

優先順位の違いは、人々に良い時は補完を、悪い時は対立を生む。「①スピード×成果重視タイプ」の要素が強くなると、正確さや感情を重視する人たちとは補完関係となるが、同時に対立の関係も生まれやすくなる。

しかし起業家が経営チームを作ろうと考えた場合、正確さや感情を重視する人たちと信頼関係や協力関係を築くことは重要だ。優れた経営チームは、①~④すべてのタイプの人が協力し合うことで実現すると考えられる。大切なポイントは、対立を御し、補完のメリットを引き出すことだ。経営チームから、正確さや感情を重視する人を排除してはいけない。

上記は志向面での補完関係と言えるかもしれない。次は業務面での補完について触れたい。

業務面での補完とビジョン・人生観の一致を目指せ

補完関係が生まれるのは、違いがある時であるのは言うまでもない。業務の補完は、一般的に言えば自分が弱みとすることを強みとする人との協働で生まれる。起業家はまず、自分の強みと弱みを直視し、真の強みを理解し、真の弱みを受け入れることである。これは言うほど容易なことではない。それは時に不安や心の傷を受け入れることだからである。

加えて、経営チームに必要な強みを知ることも重要だ。必要な強みは、前稿「起業家育成の進め方(2)」で取り上げたビジネスモデルによって異なる。事業で採用したビジネスモデルが、経営チームに求められる強みを決定づける。

最後に最も大切なのは、ビジョンと人生観の一致である。ビジョンとは目指す世界である。人生観とは、人生で価値あることは何か?ということである。ビジョンと人生観は、日々の意思決定に大きな影響を与える。完全一致は不可能だが、長い時間を共にすることになる経営チームにはできるだけビジョンと人生観が近い人を加えたい。

こういったことを実現するには、起業家自身が自らのビジョン・人生観を理解することが肝要になる。加えて他者の強みや弱み、ビジョン、人生観も理解できなくてはならない。人事の要諦は自己理解・他者理解にあると言ってよい。知ることで活かすことができる。

さて、このような人材はどのようにすれば採用できるのだろうか。次稿では2人目、3人目のメンバーの採用方法を考察し、起業家育成の立場でまとめてみたい。

起業家育成の進め方(1)
起業家育成の進め方(2)

 

2020.09.15