地域構想研究所 防災・減災プロジェクト

著者
大正大学地域構想研究所 研究員/防災科学技術研究所 客員研究員
佐藤 和彦

 基調講義2では、今回のセミナーのメインテーマである風水害について、専門的見地からの解説をお願いいたしました。
「災害をもたらす集中豪雨と線状降水帯の発生メカニズム」と題し、気象庁気象研究所台風・災害気象研究部主任研究官の廣川康隆先生にご講義いただきました。

 廣川先生は、風水害を引き起こす素因となる集中豪雨や線状降水帯について、最新の研究成果を視覚的にわかりやすい資料を用いて解説してくださいました。例えば、線状降水帯については、一例として、通常であれば1時間程度で消滅する積乱雲が、風上側で次々に発生して風下に流されながら線状に並びたつバックビルディング型の線状降水帯の形成過程についてご紹介いただきました。そして、線状降水帯にはいくつかのタイプが存在して一様ではなく、発生の必要条件は解明されつつあるものの、十分条件についてはわからないことも多く、正確な予測は難しいことが説明されました。予測の手法としては、地球の大気を格子状に分割し、複雑な方程式を組み合わせてスーパーコンピューターを駆使して数値予報モデルを構築していること、1,000通りものシミュレーションを行うアンサンブル予報への期待などが紹介されました。
最後に、令和4年度から気象庁が発表する気象情報に線状降水帯発生の可能性について言及する取り組みが開始されることが説明されました。この情報提供が今後、自治体や住民のなかで活用され、命を守るための適切な行動につながることを期待したいと思います。

(2) 事例紹介・講義

 今回のセミナーでは、竜巻災害と浸水被害について、大正大学の連携自治体からご紹介いただきました。
まず、宮崎県延岡市の竜巻災害について報告していただきました。報告者は、当時の延岡市長であり、現在は地域構想研究所副所長である首藤正治教授です。

 平成18(2006)年台風第13号が接近する中、延岡市では藤田スケールF2クラスの竜巻が発生しました。冒頭にJR九州の特急列車が竜巻にあおられて脱線・転覆したショッキングな事例が紹介されました。この竜巻による住家被害は、全壊121棟、大規模半壊86棟、半壊283棟、一部損壊1,142棟、計 1,632棟に上りました。竜巻被害の特徴として、短時間に狭い範囲で甚大な被害をもたらすことなどが挙げられました。
そうした中にあって、前年度から開始した事前登録制の災害ボランティアネットワークと民間事業所との災害時応援協定が有効に機能して、迅速な復旧・復興に向けた活動が開始されたことが報告されました。

 次いで、令和元年東日本台風災害について長野県須坂市の山小忠久危機管理担当課長から当時の状況をご報告いただきました。
当時、消防本部に勤務しておられた山小課長からは、救助活動等に従事した経験に基づいて、千曲川の堤防越水によって広範囲が浸水した被害状況について、多くの写真を用いた臨場感あふれる報告が行われました。
また、住民アンケートに基づく検証結果として、“被害にあうとは思わなかった”“これまで被害にあったことがなかった”という理由で避難しなかった人が多くいたこと、適切な避難を促すためには複数の情報入手方法が必要であると確認されたことなどが報告されました。
そして、検証結果を踏まえて地域の防災活動計画であるコミュニティ・タイムラインの取り組みを進めていることなどが紹介されました。行政による適切な情報発信、多様な手段による確実な情報伝達に加えて、住民・地域による適切な避難の判断及び行動を促す具体的な取り組みの重要性を考えさせられる報告でした。

 最後に、数多くの被災地で住家被害認定調査を指導してこられたMS&ADインターリスク総研の堀江啓先生から、風水害での住家被害認定調査について解説していただきました。
はじめに被災者生活再建支援業務は、長期、多岐にわたり、柔軟性と公平性の両立が求められる業務であることが説明されました。そして、罹災証明書の基礎となる住家被害認定調査は、国が定めた「災害に係る住家の被害認定基準の運用指針」等に基づいて自治体が行う調査であること、地震・水害・風害・土砂災害などの地盤被害の4種類の調査方法が定められていることが説明されました。より具体的には、木造プレハブ住家に係る水害一次調査の方法や被災地での調査業務の一日の流れについて解説していただきました。

 最後に、モバイル調査、全壊一括認定、ドローンを活用した屋根被害調査など、被災地で実践された被害認定調査の最新事例が紹介されました。短時間ではありましたが、多岐に及び内容の濃い講義でした。

2022.06.01