イノベーションの条件
イノベーションは何処でも起こるわけではない。イノベーションは、特定の地域においてのみ発生生する。つまり、イノベーションの発生には特定の条件が不可欠なのである。
それではイノベーションの発生にはどのような条件が必要か。
イノベーションは、日常的な条件のもとで生じるわけではない。いわば突然変異なのである。異才が集まり、摩擦が生じ、混乱の中から突然変異が生まれる。突然変異は何らかのきっかけがあればイノベーションに転化する。
イノベーションの担い手は、社会的な活動の中で新たに事を起こす創造的な人材である。創造の所産が現実の経済に組み込まれ、「新機軸」を実現する。それまで存在しなかったものやサービス、考え方が新たに登場する。それがイノベーションである。
そして、地域内でイノベーションは、連鎖的に発生する。イノベーションがイノベーションを呼ぶといってもよい。
クラスター効果
したがって、特定の時代、特定の地域にイノベーションは発生する。イノベーションがまとまって発生する地域が「イノベーション地域」である。こうした地域には、多くの企業家が活動し、次々に新しいことに挑戦する。
そして、こうした企業家たちの活動を支援する人や企業が自然に集まり、クラスターが形成される。クラスターにはイノベーションの気風が生じ、定着する。
いったんイノベーションに火が付くと、次々に点火され、イノベーションが拡大する。理工系の大学や研究所からベンチャー企業が数多くスタートするようになる。集積が集積を呼び、産業地帯が形成される。相互に関連が存在する数多くの機関がまとまって立地する傾向が展開する。そうした地域の典型がシリコンバレーである。
地域振興のためには、イノベーション地域を意図的に形成することが重要である。したがって、「第二のシリコンバレー」を形成することが世界中で地域振興のスローガンになっている。
アメリカにおいては、各地に次のような事例が広がっている。
・エレクトロニクスハイウエー(ボストン)
・シリコンコースト(マイアミ)
・シリコンデザート(フェニックス)
・シリコンフォレスト(ポーランド〜シアトル)
他方、ドイツやフランスにおいては、それぞれ数十カ所がイノベーション地域として政府によって指定されている。そのほか、特別に政府主導で大規模なイノベーション地域が形成されている。
我が国の課題
我が国においても、テクノポリスをはじめとして、政府がイノベーション地域を形成することが試みられている。
しかし、こうした政策によってイノベーション地域が形成され、発展した例はほとんど見当たらない。我が国においては、産学連携が伝統的に活発ではない。そして欧米のような研究型大学も極めて限られている。欧米のイノベーション地域は研究型大学を中核拠点として形成されている。我が国においてはそうした拠点が形成されていないから、イノベーション地域は成り立ちがたい。
最近では産学連携の活発化を前提として新たにイノベーション地域を形成しようという試みが出始めている。大学や研究機関と企業をネットワーク化する動きも進み始めている。
時代に対応するイノベーション地域がようやく形成されようとしている。