地域振興のエコシステム

著者
大正大学地域構想研究所所長
清成忠男

エコシステムとは

最近、スタートアップのエコシステムといった用語法が見受けられる。ここでいうエコシステムは生態系というよりは、広く経営環境という意味で用いられている。
地域振興についても、円滑に進めるためには適正な環境条件が必要になる。いわば、ソフトなインフラである。ただインフラといっても内容は多様である。それを目的に合わせて統合し、一つのシステムとして整理する必要がある。

さて、エコシステムは、事業主体にとって客観的なシステムにとどまらない。主体的な努力目標なども含まれる、いわば、活動にあたっての必要条件である。

それでは、いま、なぜエコシステムか。個人であれ、組織であれ、活動を成功させるためには、手段の妥当性や効率が問われる。以下、地域振興を例にエコシステムについて具体的に検討しておこう。

活動のエコシステム

地域振興活動のソフトなインフラを整備するにあたって、とくに政策や制度が重要である。地域振興の事業主体は多様であるが、その活動を支援する政策、制度、事業モデルなどのイノベーションにより、新しい地域を創造する必要がある。そのための最重要インフラは、人財である。

具体的には、地域振興にあたっての問題点を発掘し、その解決をはかる専門人財の拠点形成をはかることになる。しかも、問題解決には、さまざまなレベルがある。

まず、地域形成にあたっては、地域の事業主体によるヴィジョンと戦略の策定が不可欠である。策定には、地域住民が主体的に取り組む必要があるが、同時に地域内外の人財の活用が有効である。インフラとして多様な専門人財を組織する。
つぎに、事業主体のビジネスモデルを確立する必要がある。絶えずイノベーションに挑戦するための事業モデルである。新規事業の創出のみならず、ルーティンワークの改革による効率化もはかる。
さらに、危機管理を組み込んだ組織形成がきわめて重要である。そのための専門人財の育成・蓄積が重要な課題になる。

こうした事業モデルを動かすためには、全体的なガバナンスが非常に重要である。ステークホルダーの理解と協力を求める組織運営を実施しなければならない。
そして、他の事業体との連携も今日的な課題である。ネットワーキングへの参加、産学連携、地域間連携、国際連携、等々、多様な結びつきが現実に展開している。こうした連携組織の存在が、事業発展のためのソフトインフラになる。

エコシステムとしてのクラスター

今日では、世界中にさまざまな産業クラスターが形成されている。クラスターのメリットは、取引コストの低減である。数多くの企業が集積しているから、サーチ・コストが低下する。新しい取引先が容易に見つかる。新技術、優秀な技術者なども見つけやすい。また、契約コストも低下する。クラスター内に弁護士、弁理士、経営コンサルタントなどが存在する。それが契約面で有利に作用する。

このように、サーチ・コストと契約コストの低下により、取引コストが大幅に低下する。のみならず、イノベーションも発生しやすい。さまざまな情報が身近に入手できるからである。人と人の接触が容易になり、異質人財の接触によって知的摩擦が生じ、イノベーションが起こる。クラスターはまさにイノベーションのエコシステムなのである。

また、最近では、まずあるべき地域を構想し、それを実現するためのエコシステムを用意する。そして、事業化のためのプロジェクトを形成する。
その一例が、「企業家的エコシステム アルペ・アドリア」である。この地域はスイス(アルプス)からオーストリアを経てイタリー(アドリア海)に至る歴史的に結びつきが深いという特徴を有し、質の高い中小企業が分散的に立地している。
この地域の一角に企業家風土を形成し、先端企業のスタートアップ・ハブを創出する案を実現するために、まずエコシステムを整備する。プロジェクト・チームを立ち上げ、ヴィジョンと戦略を策定する。クラスターの核はサイエンス・パークであり、大学、開発型企業、インキュベーターなどの立地を求める。

政府系ファンドも参加する。こうしたエコシステムの形成とともに、現在は実施段階に入っている。

2018.08.29