大学定員抑制法 ─ 大学は人口集中の原因か?

著者
大正大学地域構想研究所所長
清成忠男

東京都心への人口集中を是正

去る5月 25 日、「地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による若者の修学及び就業の促進に関する法律」が成立した。いわゆる大学定員抑制法である。

この法律の目的は次の通りである。「我が国における急速な 少子化の進行及び地域の若者の著しい減少により地域の活力が低下していることに鑑み、地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出のための措置を講ずることにより、(中略)地域の活力の向上及び持続的発展を図ることを目的とする」。

具体的には、「大学における地域の特性を生かした教育研究の推進を重視する」ものの、「特定地域内学部収容定員の抑制」を実施する。この特定地域とは、「学生が既に相当程度集中している地域であって他の地域における若者の著しい減少を緩和するために当該学生が更に集中することを防止する必要がある地域として政令で定める地域」である。さしあたりは、東京 23区が指定されている。

つまり、人口の一極集中を是正するため、都心の大学の定員 増を抑える。他方で人材育成や雇用創出に取り組む自治体への交付金創設も定める。
ただ、この措置は2028年3月末まで、 10 年間に限定される。また、若干の例外が認められている。ところで、こうした政策にはかなりの無理があり、効果も期待できない。以下、問題点を順次検討しておこう。

大学は人口集中の原因か?

人口の東京一極集中は、依然として進んでいる。とくに 23 区には政策、行政、経済の中枢機能の集積が著しい。したがって、雇用の機会は、他の地域とは比較にならないほど豊かである。そのため、学生は23区の企業等に引きつけられる。結果として、23区には多くの大学が立地する。

雇用は、企業等の集積の派生効果である。大学が23区に立地するから、東京への一極集中が進むのではない。まさに事態は逆である。学生の就職に有利な23区に大学が引きつけられるのである。

東京に立地する大学も、いったんは郊外に出たものの、最近では都心回帰が進んでいる。刺激の多い都心への立地は、総じて教育研究にプラスになり、新学部設置への必要性も強まる。

経済社会のデジタル化とグローバル化が急速に進む現代にお いて、 23 区は多様な人材の交流の場であり、情報拠点となっている。多くの分野で、活発な新旧交代、新陳代謝が進んでいる。
ただ、23区の活発な活動を抑えても、地方の活性化が可能になるわけではない。

定員管理政策への疑問

最近では、私立大学に対する定員管理政策が目立っている。今回の23区における定員増の抑制策もその一例である。

現在、在学生が収容定員を上回る大学と、下回っている大学が並存している。こうした過剰と不足を調整すれば、全体が適正化するというのであろうか。そもそも全体としての収容定員が適正であれば、調整政策は一応意味をもつ。

ただ、現実の定員は、個々の大学が設置の際に大学設置基準に基づいて申請・認可されたものである。そうした数値の合計額は、マクロ的に適正であるわけではない。しかも、少子化が進めば、定員割れ校が増加する。地方の中小規模大学に定員割れ校が多い。こうした定員割れは、大規模大学が定員を順守しても解消しない。

わが国はすでに人口減少社会に移行している。とりわけ、地方において、人口減少が著しい。こうした地域においては、高齢化率が高く、生産年齢人口が減少しているから、どうしても経済活力は低下する。若者の流出も著しい。
しかも、人口減少が進んでいる地域においては、大学が過剰になっている。こうした大学過剰問題は23区の定員抑制を実施しても解消しない。

いずれにしても、定員管理政策の効果は、ほとんど期待できない。定員管理という合理的な根拠を欠いた受け身の政策でなく、積極的な地方大学振興策を展開すべきであろう。大学の地域内連携や東京の大学との連携も一考に値する。

また、地方の国立大学も、国からの運営費交付金の削減と学生確保の問題に直面している。国立大学や公立大学との連携も有効であろう。

(地域構想研究所長 清成忠男)

2018.07.30