構造不況業種である大学の構造調整のゆくえ

著者
大正大学地域構想研究所所長
清成忠男

大学は構造不況業種

大学は「構造不況業種」といえよう。産業界では、構造的に不況に陥っている産業を「構造不況業種」と呼んでいる。
例えば、石炭採掘業がその典型である。石油の登場で石炭の需要は激減、放置すると、雇用問題、地域問題が深刻化する。

そこで政府は構造調整政策を発動する。
経済官庁は、すでにこうした政策を実施した経験を有してい る。旧通商産業省は「、繊維工業設備臨時措置法」(1956年)、「石炭鉱業合理化臨時措置法」(1955年)、「産炭地域振興臨時措置法」(1961年)、「特定不況産業安定臨時措置法」(1978年)など、法律に基づいて一時的に産業調整政策実施してきた。産業構造転換で、次々に「構造不況業種」が登場し、対策がとられている。また、農林水産省は、農業や遠洋漁業について調整を実施した。国税庁は、清酒産業を対象にした政策を発動した。

こうした政策の特徴は、企業や事業所の廃止、機械設備等の 廃棄、地域構造の転換などを伴う点である。したがって、政策の実施には一定のコストがかかる。何らかの理由で需要が縮小し、供給力が過剰になるため、供給力を削減することが必要になる。国の財政力に余裕があれば、財政資金でコストを負担する。財政資金に余裕がない場合には、業界団体等がコストを負担する。
コストの負担方法は、その時の状況による。

地域とのかかわり

需要が減少した場合、本来は市場経済に依存して企業は自主的に対応する。自己責任が原則である。事業転換などで、生存をはかる。
だが、特定の産業が地域に集積している場合、需要の減少が 急速に進むと多くの企業が破綻する。産業が短期間に立ち行かなくなると、地域そのものが構造不況に陥る。とりわけ雇用問題が深刻化する。既存産業に代わる新産業の創出が必要になる。わが国では、数多くの地場産業が全国的に立地していた。そして、産業構造高度化の過程で、構造不況地域が次々に生じた。

それでも、経済成長が著しい時代には、地域不況問題の解決は、それほど困難ではなかった。
だが、わが国は、2008年以降、人口減少社会に移行した。 経済成長率も低下し、しかも東京圏一極集中が進み地方の疲弊が著しい。多くの地方において、少子高齢化が一段と進展している。経済活力は低下し、地域の再生は容易ではない。
とはいえ、第 4 次産業革命の到来とともに、地域には新しいチャンスが生じている。IoTは、地域の「つながり」にプラスの働きをもたらす。

大学と構造調整

あらためて大学の状況を見ると、大学は全体として過剰なうえに、今後も少子高齢化は進む。文部科学省の試算では、2040年度の大学進学者は2017年度に比べて9割減の 51 万人。入学定員が現状のままであれば、約 10 万人が過剰になる。
こうした状況下で、とりわけ地方の私立大学の経営は深刻化している。すでに4年制大学の半数は入学定員割れであり、収入減から学校法人の約4割は赤字に陥っている。もちろん、大学教育の需要が全体として大きく落ち込むとしても、新しい需要は次々に発生している。また、新しい研究需要は、今後かなり拡大すると思われる。したがって、大学には積極的対応の余地はある。だが、地方の中小規模私大の多くは、資金的にも、教育研究力のうえでも、積極的対応力は乏しい。
一大学では対応が困難な状況が広がっている、学校法人の経営は自主性、自己責任が原則だが、大学間連携で問題解決をはかるしかない。問題は、連携のあり方である。経営、教育、設置形態、規模、立地、等々、どのレベルでどう連携するか、ビジョンや戦略で合意できるのか。

文科省は、3月27日、地域の複数の国公私立大学が出資して 一般社団法人を設立し、グループで運営する制度案を公表した。
ただ、検討すべき問題が残る。設置形態が異なれば経営や財務に質的な違いが大きい。同じ設置形態であってもさまざまな格差が大きい。大学によってビジョンや戦略が異なる。異質を超えて一体運営するといっても有能な経営者は社会的に存在しない。そもそも、自主性と自己責任に限界がある国立大学には真の経営者は存在しない。また、学校法人にも財務を理解し、経営能力を有する理事長は少ない。新法人は前例のない特殊な法人であるから、経営者を民間からスカウトすることも困難である。それでも、議論を深める契機としての意義は大きい。

(地域構想研究所長 清成忠男)

2018.06.05