続々・まちの香り

著者
大正大学地域構想研究所 最高顧問
鎌田 薫

住民の息吹を感じるまちづくり

前稿で、中心商店街の活性化の成功事例として、川越一番街商店街と高松丸亀町商店街をあげておいた。

前者が蔵造りの町並みによって醸しだされる伝統的な風情を保存することを特色とするのに対し、後者は街区全体の再開発を行うことでまちの香りを一新させたことを特色とするものであって、その手法は対蹠的であるが、それぞれの地域の地権者や商業者の合意に基づいて、自主的・主体的にまちづくりの方針を決定し、引き続きマネージメントを行っている点で共通している。このように、地域住民の主体的な意思に基づいてまちづくりが行われているからこそ、そこで営業活動や日常生活を営んでいる人々の息吹が聞こえるような個性にあふれた魅力的なまちができあがったものと思われる。

とはいえ、それぞれの地域の地権者・商店主は、当事者が任意に集った団体などとは違って、地理的関係において偶然的に結びついたものでありながら、市民生活のすべての側面で繫がっている。とりわけ伝統的な商店街においては、お祭りその他の地域慣行については既に強い一体感が形成されている一方で、さまざまなしがらみが入り組んでいることも多く、そう簡単には全員の合意を得ることができない。

そうした中で、それぞれの地域の中心商店街として長い歴史を有する川越や高松で全員合意を基本とするまちづくりが成功裏に進んだ要因として、次のようなことが考えられる。すなわち、これらの商店街では、日頃から地域での意思疎通が円滑であったこと、商店街の衰退あるいは地域環境の破壊に対する危機感と商店街の活性化に向けた強い意欲が共有され、その実現に向けた活動を可能とする経済的な基盤もあったこと、そして国や自治体の適切な助成、まちづくりや商店街活性化に係る専門家、周辺住民等の積極的な支援、さらにはそれらをうまく組織化することのできる優れたコーディネーターの存在などをあげることができる。

ソフトローとハードロー

高松丸亀町も川越一番街も、傷んだ商店街、傷みはじめているまちについて、活気のある商店街、快適で住みよいまちに再生させようとするものである。そのためにはさまざまな道具立てが考えられるが、商業もまちも、そして住民の意識も時代の進展に応じて不断に変化していく。それらに敏感に対応するには、画一的な規制を設けるよりも、事情に応じて柔軟に対応できる規律の方式をとる方が妥当であるということができる。そのため、川越一番街では、1975年に重要伝統的建造物群保存地区の制度が発足した際に対象地区としての調査が行われたが、直ちにその指定を求めることはせず、「まちづくり規範」と「町並み委員会」での議論を通じた住民合意を通じてまちをマネージメントしていくという道を選んだ。

法律の世界では、20年ほど前から、自主的な履行に期待する私的な取り決めや申し合わせ(ソフトロー)の方が、裁判等を通じた強制力を伴う法律による(ハードロー)よりも社会的効率性を高めうるとして関心を集めてきた。川越一番街の試みはこのソフトローの考え方を先駆的に実施したものであり、住民主体のまちづくりの理念にも合致しているといえよう。

しかし、対外関係は、これだけではうまくいかない、川越一番街でも、押し寄せるマンション建設の波からまちをまもるために、重要伝統的建造物群保存地区の指定を受けた。また、高松丸亀町では、細分化された土地の上に店舗のほかにマンションや診療所を伴った大規模なビルを建築することで新しい店舗や新しい住民を呼び込むこととしたが、地権者に土地所有権を保持させつつ、マンション購入者等の権利の安定を図り、かつ、都市再開発法の適用等を実現するために、定期借地権を設定することとした。それ自体が従来の考え方に革新をもたらすものであったが、それにより多くの住民を呼び込んで、魅力ある商店街、住みやすい町を実現し、地域全体の活性化を見事に実現したことは、賞賛に値する。

(「地域人」第66号より)

2021.03.15