続・まちの香り

著者
大正大学地域構想研究所 最高顧問
鎌田 薫

中心商店街の衰退

前稿で、魅力のある「まち」には、それぞれのまちに特有の「香り」があり、それはそのまちの物理的な構造だけでなく、そこに集う住民たちの息吹によって形成されるという趣旨のことを述べた。

地方都市においては、中心市街地にある伝統的商店街が、その地域の経済活動を牽引し、かつ、地域の消費と住民の交流を支えることで、地域コミュニティ形成の核となり、それぞれのまちの「香り」を醸成してきたということができるだろう。

ところが、その商店街の衰退・空洞化の勢いが止まらない。中小企業庁の「商店街実態調査」によれば、1970年には「繁栄している」と回答した商店街が40%あったが、90年に10%を切り、2009年にはこれが1%となり、空き店舗率も10%を超えるに至った(2018年には、繁栄しているとの回答は3%弱に改善したが、人口10万人未満の都市では2%に達していない。また、空き店舗率は全体で14%弱となっている)。

個々の商店の空き店舗化については、施設の老朽化、経営者の高齢化が進む一方で、商店街への来訪者が年々減少して回復の兆しがみえないために、後継者も新規参入者も見込めないことなどの理由があげられる。

そして、その背景には、モータリゼーションの進展と大規模商業施設の郊外立地、デパート等の撤退、公共公益施設の郊外移転などの事情があり、さらには、支店・地方営業所の閉鎖、生産拠点の海外移転、中心市街地における人口減少と高齢化等の構造的問題があり、今後は、ネットショッピング等の普及がこうした傾向にさらに拍車を掛ける可能性もある。

中心商店街活性化の試み

右にみたような事情はいわば自然の成り行きであって、むしろ、それによって中心市街地の地価が下落し、新たな参入を容易にして、新しい時代の要請に応じた土地利用形態への転換を促進することを歓迎すべきであるとする見解も有力である。

しかしながら、それによって地方都市の衰退を食い止め、さらに発展させるという喫緊の課題に十分に応えうるか疑問の余地もある。とりわけ、永年にわたって維持されてきた歴史的な町並みやそれぞれのまちの文化・伝統に保存されるべき価値を見出すことのできる場合や、永年にわたる公共投資の集積を有効活用すべきものと判断されるべき場合、さらには地域全体の均衡ある発展を実現するためには当該商店街の活性化が必要と認められる場合には、その活性化を政策的に実現する必要があると考えられる。

政府においても1998年に施行された中心市街地活性化法をはじめとするいわゆる「まちづくり三法」など、中心市街地とりわけ商店街の活性化を促進するための施策を講じてきた。

それらの施策によっても商店街の空洞化に歯止めがかからなかったことは既にみたとおりであるが、そうした中で、いくつかの成功例が注目されてきた。その一つの例が川越一番街商店街における蔵造りのまちづくりであり、もう一つが高松丸亀町商店街の再開発である。

前者は、「町並み委員会」による「町づくり規範」の適用を通じて住民主体の町並み保存をしていること、および、蔵造りの町並みの保存を自己目的化するのではなく、「商売がうまくいくことこそが町並みの持続的な保存につながる」という信念の下で商店街の活性化を図っていることを特色としている。後者は、「居住者さえ戻れば、商店街は勝手に再生する」という理念の下で、定期借地権を活用することによって土地負担を顕在化させることなく街区全体の再開発を行い、新規の商業床だけでなく、医療施設、集合住宅、イベント空間等を整備して、居住人口を5人から1000人に増加させ、商店街の通行量を3倍に増やすなどの成果をあげている。

いずれも、地域の商業者を中心とした協議を重ねて自主的・主体的にこれを実現したことを特色としているが、紙数も尽きたので、詳細は改めて紹介することにしよう。

(「地域人」第65号より)

2021.02.15