オンライン化と教育

著者
大正大学地域構想研究所 最高顧問
鎌田 薫

オンラインの活用と市民生活の変容

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って、オンラインを活用したリモートワーク、リモート授業、行政手続のデジタル化の推進等が注目されている。これらが、一人一人の市民の活動形態に大きな変化を生み出すことは間違いないし、物理的な距離を超えて情報の取得・交換ができるようになり、勤務地にこだわらない居住が可能になることから、地方創生の契機になることが期待されている。

もっとも、たとえば民事裁判手続のIT化に関して、「大都市の大規模法律事務所が事件を独占して地方の弁護士が衰退する」といった反対意見が表明されている。こうした側面も含めて多角的・総合的な検討をする必要があるが、ここでは教育への影響について考えてみたい。

オンライン授業の課題と利点

児童・生徒・学生の登校を抑制し、オンライン授業に切り替えることについては、教育の目的は、知識の伝授だけでなく、他人との交わりの中で感性を磨き、集団生活のルールなどを身につけることも重要であり、この側面が欠落するという懸念が表明されている。これに対する配慮は特に低年齢層にとって重要であり、全てをオンライン授業に委ねてしまうことは妥当でないだろう。

その一方で、オンライン授業には、多数の児童・生徒・学生に効率的に情報を伝えることによって教員の負担を軽減することができるし、システムの構成次第で、分かりにくいところを繰り返し学ぶことや、教室におけるよりも抵抗感なく議論ができるなどの利点もある。

それ以上に、これからの時代は、自ら課題を発見し、必要な資料を検索・調査・分析して、独自性のある解を見出していくといった学びが必要であり、オンライン授業を通じて、そうした主体的・能動的な学びの姿勢を身につけることができるのではないか、また、教員と受け手が個別の回線で結ばれていることを利用して、一人一人の児童・生徒のニーズに応じたセミオーダーメイド型の学びも実現できるようになるのではないかということを期待している。さらに、狭い教室に児童・生徒が密集することを避ける必要があるのなら、比較的住居の近い児童・生徒が少人数で集まって地元の大人と交流するといった学び方もあって良いように思う。

こうした形で、オンライン授業と対面型・集合型の多様な学び方を適切に組み合わせることで、旧来型の詰め込み型授業から脱却することを強く期待している。

情報通信環境の整備

オンライン授業を最大限活用するためには情報通信環境の整備が不可欠の前提条件になる。この点、政府では、新型コロナウイルス禍に先立って「GIGAスクール構想」を打ち出しており、「 Society5.0 時代を生きる子どもたちに相 ふさわ 応しい、誰一人取り残すことのない公正に個別最適化され、創造性を育む学び」を実現するために、昨年度予算および本年度第1次補正予算において、義務教育段階の児童生徒1人1台端末を実現(2973億円)、小・中・特別支援・高校における校内LAN環境整備支援(1367億円)やICT技術者の配置経費支援(105億円)などの措置を講じている。

この構想が早期に実効性のある形で実現することを強く期待している。しかし、たとえば1人1台端末構想等において、私立学校については必要額の2分の1の補助とされている。この施策は、全ての児童・生徒の在宅学習をも可能にしようとするもので、実質的には個人補助なのだから、非課税世帯の子弟に対する学費負担軽減措置と同じく、所属する学校の設置形態によって区別することには合理性がない。教育政策を抜本的に改革しようとするなら、伝統的な予算編成方針からの脱却も考えるべきだろう。人への支援も技術者だけでなく、人文社会科学的見地も取り入れて情報通信技術の成果の多様な使い方を指導できる人材へと拡張することを望みたい。

オンライン授業の推進を契機として学びの目標や学び方を大胆に変えようとするなら、大学入試や企業等の採用に当たってもそうした学びの成果を正当に評価することが必要になる。その意味でも、教育改革について、学校だけでなく社会全体が、議論を尽くし、一体となって進めていくことを強く期待する。

2020.10.01