新型コロナ危機を地方創生の好機に

著者
大正大学地域構想研究所 最高顧問
鎌田 薫

新型コロナで見えた日本の強みと弱み

新型コロナウイルスの世界全体での感染者数は7月半ばには1300万人を超え、死亡者数も60万人近くになっている。これに対し、日本では、感染者数2万人強、死亡者1000人弱にとどまっている。法的強制力を伴う外出禁止措置をとらなかったにもかかわらず、欧米諸国よりも効果的に感染拡大を防止できていることについては、遺伝子的要因も指摘されているが、日本人の生活様式や高い衛生観念、規律正しさなど、私たちがあまり意識してこなかったわが国の「強み」も大きく影響していると言うことができるだろう。

その反面、新型コロナウイルス禍は、日本社会の「弱み」も露呈させた。たとえば、生産拠点の過度の海外移転が、マスク等の危機時に必要とされる物資の入手困難による混乱を引き起こしたし、感染者の大部分が東京圏に集中していることは、東京一極集中による過密化が感染拡大防止を困難にしていることを示している。

これに加えて、特別定額給付金のオンライン申請をめぐるトラブルやコロナ接触確認アプリの不具合など、行政によるICT活用が近隣諸国に比べて著しく立ち後れていることや、PCR検査数増大のかけ声にも拘わらず未だに1日あたりの検査数が最大でも1万人程度にとどまっていることなど、対策の遅れを挙げることができる。わが国は、コンピュータ先進国であるはずだし、1日あたり4万5000人以上の感染者を報告しているブラジルよりも医療水準が高いと自負しているのだから、上記のような事態は、基礎的な技術 ・ 技能上の限界によるのではなく、政策上の配慮その他の事情によるものと考えられる。

この危機を 地方創生の好機にするには

緊急事態宣言によっていったんは沈静化した感染者数も、再び急速に増加しつつあり、海外との往来が復活すればさらに大幅に感染者数が増えるものと予測され、少なくともワクチンや特効薬が普及するまでの間は、以前のようなかたちで過ごすことはできないであろう。その一方で、経済活動は大きく落ち込んでおり、感染を可能な限り抑止しながら、経済活動を再活性化させるために、政治 ・ 経済 ・ 社会の全ての分野で新しい行動様式を創り出していくことが求められている。

その一環として、海外に移転した生産拠点を国内地方都市に回帰させるとともに、大都市圏の住民の地方都市への移住を促進することによって、新型コロナ禍を契機に地方を活性化させることが考えられる。

そのためには、第1に、ICTを活用するための環境が整っていることが必要である。来年度予算に向けた「骨太の方針」政府案も、IT化をあらゆる分野で進めて、生活や行動様式を変化させ、東京一極集中の是正等の効果をもたらそうとしている。

この場合、たとえば教育分野では、児童 ・ 生徒に1人11台のタブレットを配布したり、コンピュータ ・ テクノロジーを教えたりするだけでは足らず、広く一般的な情報通信環境を整備・ 拡充し、ICTを多様な分野で活用する発想を育成すべきであり、企業・行政庁においては、そうした新たな発想を積極的に実現していく風土を醸成することが必要である。

また、大都市の住民が地方に移住するためには、近年の異常気象に耐えうる防災設備を整えることや、充実した医療環境や子どものための教育環境を整えることなどが必要である。新型コロナとの関係では、できるだけ多くの検査を行って、重症者を入院させるだけでなく、無症状 ・ 軽症だが感染力の強い者や悪化すると生命に危険が及ぶ可能性の高い者については、適切に隔離し、あるいは注意深い経過観察体制の下におくための施設を整備することが望ましいと考える。

しかし、重傷者用の空きベッドを確保すれば、それだけ病院の収入は減少するし、感染者が入院すれば、医療従事者の負担が大幅に増加する上に、コロナ以外の患者の来院 ・ 入院 ・ 手術が減少して、やはり病院経営を圧迫する。その影響は、以前から医師の確保や経営に苦労している地方中核病院ほど大きく、こうしたことによって地域医療が崩壊してしまう懸念もあるので、国において、早急に幅広い視点から総合的な医療政策を立案 ・ 実現する必要があるだろう。

こうした施策を通じて、地方の生活環境を飛躍的に向上させることが、わが国の明るい未来の実現につながるものと大いに期待している。

2020.09.01